『Re-born はじまりの一歩』

Re-born はじまりの一歩

Re-born はじまりの一歩


人気作家7人が贈る「はじまりの物語」ということで、いろんな形の次へのステップが踏み出される瞬間を描いた短編集です。
伊坂さんの新作が読みたくて手にとったのですが、宮下奈都さんと中島京子さんは名前すら知らない作家さんで、瀬尾まいこさんと福田栄一さんは名前は知っていたけど読むのは今回が初めてした。つまり7人の内4人が初めましての作家さんになるわけで、正確にはRe-bornという言葉の意味とは違うけど、わたしにとってもある意味「はじまりの物語」ばかりで、すごく新鮮な気分だった。本を読む時間がどんどん少なくなってる状況なもんで新しい作家さんと出会う機会も少なくなってるんだけど、新しい出会いってやっぱり嬉しいもんだよね。
初めての作家さんでは福田さんの「あの日の二十メートル」という志望大学に落ち3流大学に通う大学生が市民プールで出会った老人に水泳を教える話が好きです。ストーリーとしてはありきたりと言ってしまってもいいようなものなのだけど、大学生がバカではなくごく普通の大学生で老人に対する口の利き方もさほど悪くはなく読んでいて気持ちがよかったし、老人の孫娘とその先がありそうなラストもよかったと思う。
瀬尾さんの作品は長編の元になったものだそうで、是非長編を読んでみたいと思った。
平山瑞穂さんの「会ったことがない女」も福田さんの作品と同じように老人と若者の物語なのですが、こっちはさわやかさの欠片もなく(笑)、どこか捩れたような、平山さんらしい作品でした。
そしてお目当ての伊坂さんはニヤリという感じ。作中の会話に登場する「残り全部バケーション」って語感が、いつものことですが憎たらしいほどスカしてる(笑)。家族としての形を解散する日(親は離婚、娘は学校の寮に入寮)を迎えた家族が、ちょうどよくPHS(これが携帯でなくPHSなのがまた伊坂らしい)に入ったナンパメールがキッカケである男と知り合い行動をともにすることで物語が動くんだけど、その男にもまた物語があって・・・もちろん家族側もそれぞれあるわけで、こんなに短い物語の中ですらいくつものドラマを入れ込む手腕はさすがだなと。男の結末も考えようによってはとても残酷な想像もできるし、反対に新たな人間関係の始まりと考えることもできなくはないし、それは終わってしまう家族ももちろんそうで、とても短い物語なんだけど広がりがあるというか余韻が続くというか、読み応えがありました。