朱川 湊人『わくらば日記』

わくらば日記

わくらば日記

昭和30年代。当時の私は東京の足立区で、母さまと姉さまと貧乏ながらも仲むつまじく暮らしておりました。病弱ながらも西洋人形のごとき美しさの姉さまは、不思議な力を持っておりました。姉さまの力とは、人であれ物であれ、その記憶が“見える”というものでした。幼い私の虚栄心から、姉さまの力はある刑事さんの知るところとなり・・・。

気鋭の直木賞作家が、ノスタルジーとともに現代人の忘れ物を届けます。(帯より)ということで、朱川湊人と言えばノスタルジー。その描写力はもはや職人の域に達した感じがします。出版社側からもその路線で、と頼まれたりしてるのかなーと想像いたしますが、今作に関してはちょっと無理やりかも。語り部である“私”が過去を語るという形で物語は進み、語られるのは姉さまと過ごした子供の頃=昭和時代が舞台になってはいるものの、姉さまは京極堂の榎さんが更にサイコメトリー能力を持ったぐらいのハイパワーな力(というか体質?)の持ち主で、その力そのものはいつの時代であれ有効であるだろうけど、依頼されて“見る”事件はまるで現代に起きた事件で、昭和っぽさがない。語り口のお陰でソフトに感じるけれど、内容は陰惨で悲惨だ。
でもそれは最初の3話まで。残りの2話はそれまでとは空気が異なる愛と思いやりの物語が待っていて、読後感はしみじみノスタルジックなのです。もしかしたら書きたいものは前半のような物語なのかもしれないけれど、求められたものにはキッチリ答える。ここいらへんはさすが、そつがない。
いつも最後に書いてる気がしますが、そろそろホラーが読みたいなーと。