朱川 湊人『冥の水底』

冥の水底

冥の水底

東北の山奥に存在する「マガチ」と呼ばれる特殊な人間を過去と現在二つの時間軸で描いた作品なのですが、このマガチという存在をドラマチックに描くわけではなく、淡々と粛々と、一途な愛の物語として描ききってるところが面白い。その陰で所謂“普通の人間”が非道なことをしていて、でもそれについて怒りだとか憤りだとか、マガチがそれと比べてどうこう・・・という反応を示すことはない。というか、比べることすらしないんですよね。かといって、そんなマガチは清らかで尊い存在だとか、そういう描き方でもないの。マガチの中にだって非道な者はいるし、私利私欲に走る者もいる。じゃあ普通もマガチも「同じ」なのか?・・・というと、そこはやっぱり違う。現在パートの主人公目線で明らかに不気味で禍々しい“ありえない”存在として描かれているように、マガチが“そういうもの”であることは間違いない。そしてマガチはこれまでもこれからもそういうものとして在りつづける。ただそれだけ。この朱川さん独特の目線が好きだ。