『I LOVE YOU』

I love you

I love you

男性作家6人による、至高の恋愛アンソロジー。最も苦手とするジャンルのアンソロジーですが、伊坂幸太郎中村航の書き下ろしとなれば、読むしかないのです。ガンバレ俺!というわけで、
伊坂幸太郎「透明ポーラーベア」
姉が失踪してしまった主人公が彼女と出かけた遊園地で、姉の最後の彼氏である“富樫さん”と偶然出会うというお話。
主人公とその彼女と富樫さんとその彼女、二組の関係が、伊坂らしく淡々とスカしつつ、動物園という一種の異世界で垣間見た夢のごとくホンワリと描かれています。タイトルにもなっているホッキョクグマを始め、やはり小道具の使い方が上手い。一番素敵だと思ったところは、主人公と富樫さんのトイレでの会話。この空気感は伊坂しか書けないと思う。
恋愛アンソロジーという言葉に怯まず買ってよかった。どんなジャンルであっても伊坂は裏切らない。

中村航「突き抜けろ」
大学生の主人公とその彼女は、週に3度電話をかけ、週末に一度デートをするという決められたスケジュールに則り付き合いを続けている。つまり毎週火曜日は空いてるわけで、友人の坂本に連れられ、坂本の先輩である“木戸さん”の部屋で鍋を食い、飲み明かす習慣になっている。坂本は同じクラスの飯塚さんに恋をしていて、いずれ告白するつもりはあるものの、もう少し飯塚さんに相応しい男になってから、と思っているが、モタモタしているうちに飯塚さんには彼氏ができてしまう。そしてそれを聞いた木戸さんは立ち上がった。
このアンソロジーに収録されている物語の中では一番です。恋愛にはいろんなパターンがあって、人それぞれなんですよという衣を纏った青春小説ですよこれは。そして青春小説の殻をむくと、本当の恋愛が見えるわけですよ。もっと早く、もっと若い頃に読みたかったと思うけれど、でも今だからこそ何かを思うのかもしれない。
恋愛アンソロジーという言葉に怯まず買ってよかった。どんなジャンルであっても中村航は裏切らない。


他では、初めて読んだ作家さんなのですが、中田永一「百瀬、こっちを向いて」が良かったです。マンガ的なストーリーなんだけど、人間レベル(外見と精神の良し悪しを総合したもの)が“2”である主人公が、何もなければ意識することもない(おこがましくて)ような野良猫のような女の子に恋をしてしまうお話なんだけど、人間レベル2とか、薄暗い電球のような友達とか、そういう表現がなんか好き。是非違う話も読んでみたい。
石田衣良「魔法のボタン」、市川拓司「卒業写真」、本多孝好「Sidewalk Talk」は一言、痒い。設定は特別でもなんでもないのに、なぜそうドラマティックにしたがりますか。恋愛にそうそうドラマなんてねーっつーの。