東 直己『義八郎商店街』

義八郎商店街

義八郎商店街

義八郎商店街−その名の由来は諸説あるが、都内にあるありふれた古い商店街である。80年代の初め、ご多分に漏れず地上げ攻勢にさらされた商店街であるが、警察に頼らず自分たちの手で街を守ろうと決起し、排除運動を成功させたという経緯があり、その合間にひとり一種、武道や格闘技の訓練をし、今では皆その道のベテランになっていることから、一部では「武闘派商店街」として知られている。商店街の裏の公園にはいつの間にか皆から「義八郎」と呼ばれる、控えめでおとなしい不思議なホームレスが住み着いている。
義八郎商店街を舞台にした9編の短編からなる物語。


札幌を舞台にした過去多くの作品とはかなり雰囲気が違います。
電車の中で読み始め、降りる駅を通りすぎてしまったほど引き込まれた。最初の3話は特に、なんというか癒された。それぞれちょっとした事件が起こり、SFというかファンタジーというか、ちょっと不思議な力で解決されるのですが、商店街の人達がみんないい奴で可愛らしくて、現代風人情話なのです。
ここまでは気が付かなかった。ただただちょっといいお話を読んでるつもりでいた。それが、4話目ぐらいからだんだんと雲行きが怪しくなってくるというか、ちょっとした事件とはいえないような、笑ってられない空気になってきて、ちょっとばっかり驚きの結末を迎えることになる。そしてそれは、物語全体を通してみると意識して描かれた大きな流れなのです。
ここのところ、特に畝原シリーズが痛く苦しい方へ進んでいくばかりだったし、心配になってしまうほど、権力に対し喧嘩を売るような作品を書いている東氏ですが、それらの作品と比べるとタッチは柔らかだし、なんとなくほっとするような気分で読んでいたのだけれど、やはり表面通りに受け取れない作品だと思う。コメディ調でふんわりくるまれているので悲惨さは感じないけど、よくよく考えたら、一家心中や中国人犯罪、イジメ、不動産詐欺、政治と金など今の社会を反映した厳しい問題にまつわる事件ばかりで、そしてそこへ警察の力は介入してこない、というか必要としていない。上手く商店街の過去の歴史を作って、それを物語のチャームポイントに仕立ててるけど、やっぱり警察への不信を書いてるんだよな。もうこれが「書きたい、書くべき」ことなんだろうな。
まぁ、多少先入観があったりするので、それは考えすぎかもしれないし、そういうものを抜きにしても、義八郎商店街の人達は素敵です。東直己=ハードボイルドの人と思ってる人に読んでもらいたいなぁと思います。