荒木 あかね『此の世の果ての殺人』

第68回江戸川乱歩賞を「史上最年少、満場一致」で受賞した作品です。

約2か月後に小惑星が衝突することにより人類が滅亡することが決まっている世界が舞台で、もうすぐ死ぬと知らされた翌朝母は家族を置いて逃亡し父は一昨日自殺、以前から引きこもりで数年口を利いていない弟とともに自宅で暮らしながら自動車教習所に通う小春が教習車のトランクに押し込まれた滅多刺し死体を発見し、たった一人残った教官のイサガワ先生と共に「此の世の果てまで犯人を追い詰める」物語です。

いやあ、すごいわこれ。『満場一致』に納得しかない。
出版に際し応募原稿にどれだけ手を入れたのかはわかりませんが、本となって出版されたものに関しては文句の付け所がまったくないです。
「特殊設定ミステリ」「主人公コンビは共に女性」というあたりに『時代』を当て嵌めたくなるけど、それを時代と感じさせないところに『新しい世代』だなと思わずにはいられなかった。そういう意味で『史上最年少』(作者の方は23歳だそうです)にもなるほど納得。

もうね、この作品を読んだ感想を一言でいうならば「みずみずしい」。
惑星が地球にぶつかるのでもうすぐ人類滅亡しますという設定は、特殊設定ミステリ業界(ぎょうかい?)においてもはや王道と言っていいと思うのですが、その特殊性を殊更に強調せず、でも犯人を含め登場人物たちはそういう状況下「ならでは」の動機でもって行動を起こす。それがとても自然なんですよね。
そしてその登場人物たちが実に魅力的。
人類は滅亡すると発表されしばらくたった後という舞台設定なんで、電気もガスも水道も止まってる(それらを運営するために働く人間がもはやいない)し、商店や民家もあらかた略奪されつくし食料にも困る状態なので終末感はそこかしこにあるんだけど、そんななかでも誰かを想い他人を助ける人たちがいて、巻末の選評で荒井素子さんが“極限状況で生きてゆくひとが、愛おしくなる”と書かれてますがほんとそれ。
終盤でかなりピンチな状況に追い込まれるんだけど、『はい110番警察です。事件ですか?事故ですか?』と応えが帰ってきたのには思わず泣いてしまったほど。

そして真相が明らかになったあとも登場人物たちは生きるんです。「その時」がくるまでやれることをやる。やりたいことをする。

ラストシーンまでとにかく見事な作品でした。もうすぐ人類が滅亡します設定で描かれる物語のひとつの「完成形」と言っていいと思う。それぐらい素晴らしかった。
この作家さんがこれからどんな作品を書いていくのかめちゃめちゃ楽しみです!!。