雫井 脩介『犯人に告ぐ』

犯人に告ぐ

犯人に告ぐ

連続児童殺害事件を捜査する神奈川県警本部長は進展しない捜査を打開する為、過去に起こった誘拐事件でミスを犯し、田舎署に左遷されていたある男を呼び戻した。その男の登場で、姿見えぬ犯人をあぶりだす為に捜査責任者自らがニュース番組というメディアに登場するという、史上初のリアルタイム劇場型捜査が始まった。 本当に帯が豪華。横山秀夫福井晴敏伊坂幸太郎ですよ。できる限りの期待をしてしまうのは当然です。まず、捜査の責任者となる巻島警視が異色の存在となる理由となった事件が描かれる。恐らくここまではそれなりに順風満帆で進んできたであろう巻島が組織のパワーゲームの犠牲となり、初めてメディアという存在の前に立ち、そして失態を演じてしまう。被害者の祖父が某家電量販店の社長っぽかったり、巻島が晒した醜態が某乳製品会社の社長っぽかったりと、分かりやすい設定にする入り方でこういうところ上手いなと思う。巻島はキャリアではないが、警視という役職についてる以上優秀な人材なのだろうし、上を狙うようなそぶりもみせるし、冷静沈着といったイメージかと思うと、身内のことで我を失ってしまったりとあまり刑事モノとしてはいないようなタイプの主人公。しかも外見もちょっと頼りなさそうな感じ(だと思う)。1章を読み終わったところで、早く先が読みたくてあっという間に引き込まれた(帯の伊坂氏コメントではないけれど)。実際に、劇場型捜査としてニュース番組に登場するところまでの流れは、一切気持ちを逸らさせないというか、勢いあります。関係するニュース番組も、まんま昔のニューステでここらへんも想像しやすい。そしてものすごく私的な理由で、巻島のまだ若いキャリアの上司がライバル局に情報を流し始め、視聴率という数字を巡っての情報戦にもなってくる。このライバル局はニュース23だな。前半は文句なしだと思う。それが、後半になってみるみるうちに失速。初回の登場シーンまでは緊張感があるのに、それ以降は大したことないなぁ。警察とテレビ局が手を組んだという割りには、その内容はVTRを作り捜査責任者が犯人に対して訴えるというだけで、それほど実験的な試みだとも思えないし、もっと局側のドラマだったり、メインキャスターがテレビでしかやれないような何かを提案するとかあってもいいと思った。それに、それほどメディアの恐ろしさ、情報だけで左右される一般大衆の意識、それが迫ってくる恐ろしさも感じなかった。だから終末へ向けての急展開にも読み始めの頃の高揚感は戻ってこなくて、終わってみれば、まぁ普通かな、といったところ。面白かったことは面白かったんだけど、やっぱり原因は帯だと思う。期待を煽りすぎ。でも、雫井作品に触れたことがない人もあの帯には惹かれるだろうし、実際に初めて読んだ母親は「面白かったし、泣きそうになった」と言っていたので、間違いなく年末のランキングには入ってくるだろうと思う。あー期待しすぎたよほんとに。