『ジーザス・クライスト=スーパースターinコンサート』@東急シアターオーブ

この企画が発表された時から楽しみで楽しみで仕方なかったものの、初日を終えたあと台風がやって来て、翌日はマチネ・ソワレ共に休演となり、わたしがチケットを取っていたそのまた翌日のマチネ公演もどうなることかと心配していたのですが、開演時刻を1時間遅らせることで上演が決まり、交通機関もギリギリ復旧し、 なんとか無事に観たくて観たくてたまらなかったコンサートを楽しむことができました。
楽しい時間の背後にはありとあらゆる人の努力や奮闘があり、そしてわたしと同じくこの公演を楽しみにしていたのに会場に来ることができなかった人たちがいることに思いを馳せつつ、最高オブ最高な時間を過ごせたことに感謝です。

とにかくもう「最高」としか言えない。なにもかもが期待をはるかに超えるすばらしさだった。

わたしはこの作品についてタイトルとあらすじ、それから楽曲を数曲知ってるぐらいで実際に公演を観たことはなく、このコンサートのためにWOWOWで放送されたNBC版(という表記でいいのでしょうか?)をなんども見返しこの日を迎えたわけですが、OPの超絶カッコよすぎるギターで始まるOVERTUREからもう脳汁ぶしゃー。
そのあとはもうどこを切っても「歌うめええええええええええええええええ!!!!!」。
繰り返しますがわたしがなんども見たのは広い空間を使った舞台の大きさや出演者の多さなどなどすべてにおいて圧倒的スケールで作られていたNBC版なので、それと比べればスケールダウンは否めませんでしたが、迫力は十分。というよりやっぱり生でこのかっこよすぎる曲たちを聴ける、なんなら立ってノレることの愉しさたるや脳汁ぶっしゃぶしゃなんてもんじゃない!生に勝るものはないとはまさにこのこと!!。

でもですね、NBC版とは大きく違う演出があってですね、それはなにかと言いますとヘロデ王がずっと舞台の最上段の玉座に座られ「ジーザス・クライスト最後の7日間」を見ているというものなのです。で、そのヘロデ王を演じるのは日本演劇界が誇る成河さん。わたしのお目当てです。

アリス・クーパーというビッグスターが演じていたNBC版では、たった1曲、だけどめちゃめちゃパンチの効いた曲&演出でもってそのわずかな登場時間で圧倒的な存在感を残すヘロデ王だったんで、日本版でも同じようにその“出番は少ないけど誰よりも美味しい役”を成河さんがどう演じるか、というつもりでいたわけなんですが、OPから成河ヘロデ王が舞台の一番上にいるでやんの!!。紫とピンクの中間のようなピンスポが(そこだけに)ぼんやりとあたるなかでパープルのスーツ(青味がかって見えたけど、公演後の成河さんのスタッフツイートによるとパープルだったそう)に白地に紫の花柄シャツの胸元を大きく開けたアイメイクばりばりの成河ヘロデ王玉座から下界を見下ろしてんの!!。もうこの時点で「わたし聞いてない!」ですよ。心の準備できてねーっつの。

そんで慌てて双眼鏡をヘロデ王に合わせたら、足元に置いたペットボトルの首のところを掴み、そのまま宙に放って一回転させ華麗に胴体部分をキャッチして持ち替え、お水をごくごく飲むわけですよ。繰り返すけど胸元開いてるアイメイクばっちり状態で。

・・・・・・え・・・・・・なにこのひと・・・・・・エロ・・・・・・・・・(ぼうぜん)。

こんなん見ちゃったら目を離せるわけないじゃん。一瞬たりとて見逃すわけにはいかないじゃん。
なのでほんとうに申し訳ないというかもったいないというかわたしは愚かだという自覚はありますが、今回のコンサートはわたしにとってほぼほぼ「ラジオ」状態でした・・・・・・。もしくは出演:ヘロデ王のMV。
超歌うまなひとたちが歌うゴキゲンな楽曲たちを聴きながら、パイプに乗せた手でリズムを刻むヘロデ王とか、パイプに足をかけふんぞり返りながら顎に手をやるヘロデ王とか、HOSANNAで一緒に「ホ~サナ ヘイサナ サナサナホー サナヘイサナホーサナ」(たぶんこんな歌詞だった)と口ずさむヘロデ王とか、パイプに両の肘を乗せその上に顎を乗せて前のめりになるヘロデ王とか、またお水を飲むヘロデ王とか(公演途中で500mlのペットボトルが空っぽになっておった)、ジーザスのことを瞬きせずにじーーーーーーーーっと見てるヘロデ王とか、1幕はとくに成河ヘロデ王を見てるだけの時間でしたが、でも後悔はしてない。だってそれは至極。

でもそんなわたしでさえもヘロデ王から意識が逸れる瞬間がありました。デクラン・ベネットさんが演じるジーザスクライストの「GETHSEMANE」。
以前同じシアターオーブで今回シモンを演じた海宝直人さん(NBC版のシモンはサイドを刈った金髪にタンクトップの兄ちゃんで特攻隊長タイプのジーザスオタクだもんで、この役を海宝くんがやるのかーとワクワクしていたのですが、海宝シモンはイキった感じは全くなく、むしろ品行方正に生きてきた高学歴であるがゆえにジーザスの言葉にどっぷり心酔しちゃってる「狂信者」ってな感じのシモンで、これはまさに「日本版シモン」だなと。瞳孔全開でジーザスのことしか見えてない感で非常に日本らしいヤバさ)が歌うゲッセマネを聴いたことがあり、その時もそれはそれは感動したのですが、デクランさんのゲッセマネは海宝くんに比べるとそこまで激情が迸るというわけではなく、むしろ溢れでそうになる「死にたくない」という感情を必死で抑えているかのごとき歌声なのにその想いが全身の毛穴から沁み込んでくるようで、わたしのすべてがジーザスの嘆きに侵食されてしまったようで、文字通り息ができなかった。「GETHSEMANE」がこれほどまでにおそろしい曲だなんて、わたしはぜんぜんわかってなかったんだな。

そしてそんなジーザスの「罪」を裁くことを求められピラト総督がジーザスの元信者や群衆から「磔にしろ」「鞭を打て」と激しく要求された末の「39LASHES」。
これはピラトが39回数を数えるだけの曲なんだけど、NBC版ではアンサンブルが入れ代わり立ち代わりジーザスの身体に鞭を打つという演出だったのに対し日本版でのジーザスは熱狂する群衆に対しただその場で微動だにせず無表情で立ち尽くしているだけで、「39回の鞭打ち」の痛みや苦しみや残酷さといったものはロベール・マリアンさんによる『ピラトのカウント』によって伝わってくるのです。ジーザスの苦痛もだけどピラトの苦しみも伝わってくる。これがすごい。数を数えてるだけなのに、こんなにも感情が揺さぶられるだなんて驚愕でした。


でさあ、またヘロデ王の話に戻るんだけどさあ、ピラト様にこの辛い役目を丸投げしたのは成河ヘロデ王なんですよね・・・。ユダヤ人のことはユダヤ王に委ねるのがいいだろうってことでジーザスの身柄はヘロデ王に一旦は預けられるんだけど、「俺おまえのファンなんだよー」「神なら水をワインに変えてみてよ」「パンを出してみてよねえねえ」とくっそノリノリで煽りに煽った挙句「お前への興味失せたから俺の前からとっとと消えろ」となるんですよ。成河さんのパフォーマンスについては後程語るとして、このあとのヘロデ王ってばグースカ寝てんの・・・・・・。「磔にしろ」「鞭を打て」と大騒ぎする群衆にも、ジーザスに罪はないとわかっていながらその声に押され鞭を打つピラトにも、そして鞭で打たれるジーザスにも、ジーザスの”その後”にもまさしく「興味なし」とばかりに思いっきり寝てるんですよ・・・・・・。うわあ・・・ってなるよね・・・・・・。


で、成河ヘロデのパフォーマンス。
ジーザスが引っ立てられてくると、玉座からすっくと立ちあがったヘロデ王はパイプを跨ぎ潜りスルスルと身軽に降りると思いきや、2段ほど降りたところでちょっと戻って片手を離して「バア!(いい笑顔)」ってやるんですよね。そんでまた降りて、またちょっと戻って「バア!(さらにいい笑顔)」ってするんだけど、「バア」したあと目線が外れると(パイプを降りる段になると)一瞬で無表情になるんですよ。
この「バア」はパフォーマンス、自分に向けられている視線に対する陽気を装うパフォーマンスであって、ほんとうのヘロデ王は無表情のほうなのだろうと最初は思ったんだけど、でも玉座で時々酷薄な笑みを浮かべつつ冷酷な貌を見せていたヘロデ王も、まるでディズニーミュージカルのように歌い踊るヘロデ王も(ジーザスの太ももから乳首のあたりまで人差し指と中指をトコトコさせてよじ登らせるとかまさに狂気!)(世界中探してもこんなことするヘロデ王いないと思うんだけど、デクランさんに「あのときどんな気持ちだったですか?」と聞いてみたい)、どれもほんとうであってほんとうではない・・・のかなと、飽きて寝る姿を見ながらそんなことを考えました。

成河さんの芝居歌は今年の夏散々っぱら堪能させてもらいましたが、英語で歌ってもちゃんと芝居歌として届くとかなんなのこのひと・・・という舞台俳優・成河に対する底なしの畏れとヘロデ王という人物に対する怖れの相乗効果で実にヤバいヘロデ王であった。


ほんとうにほんとうにこのコンサートを観ることができてよかったです。わたしの周辺では幸いにもさしたる被害がなかったからこそのことであるわけで、それも含めてずっとわたしの記憶に残り続けるコンサートになることでしょう。
来場が叶わなかったひとたちのためにもぜひとも再演を希望&期待します!!(そのまえにWOWOW様にはぜひともこのコンサートを放送してほしいのですが、カメラ入ってたって話を聞かないのよね・・・)。