朝井 リョウ『チア男子!!』

チア男子!!

チア男子!!

実際に男子チアリーディングチームの演技を見て感動しまくった作者がそういう想いを込めて描いた作品だそうですが、確かに作者がチアに夢中なんだなってことは伝わってきまくりですが、その熱が読者まで届くかというと・・・ちょっと微妙だなぁ。私は基本男子たちがスポーツに限らず何かに夢中になるこの手の話が大好きなのですが(例:風が強く吹いているとか)、ただ男子が集団になってワチャワチャモチャモチャしてればいいってわけではなく、彼らが夢中になる『対象』を、彼らが『夢中になってる姿』を想像できることによって自分がその場というかちょっと離れたところから彼らを見守りそして共に喜怒哀楽を分かち合うのが楽しかったりするわけですよ(その中に入りたいとは思いません。チーム男子は“愛でる”ために存在するものなので)。つまり、彼らが『何をしてるのか』ってことを想像できることが重要なのです。その点この物語はよくわからなかった。やたらと技名が登場し、練習過程でその技がどんなものなのか一応の説明はなされてはいるんだけど、イマイチよくわからないのでクライマックスである大会シーンで「次は○○(←技の名前)」→技を行うメンバーの心情が明らかになる ってところで今一歩燃えることができない。会場に満ちる空気がどんなものなのか、応援し応援されるチアという競技がいかに特別で素晴らしいスポーツ(であると作者が思っている)であるのかってことは伝わってくるんだけど、それはどちらかというと「観客目線」なんだよな。演技描写もいかにも「調べたこと」って感じで、技の難しさや痛みやなんかが「実感」として感じられるほどには描かれていなかった。だからそこまでは熱くなれませんでした。巻末にイラストで技の紹介があれば良かったのにな。
それから、視点の切り替えが分かりにくかった。ちょっと読めば考えてることや口調(会話)でこれは誰の視点なんだなって分かるんだけど、頻繁に切り替わるわりにはメリハリがないというか、前の視点から何の変化もなく切り替わるのでキャラの把握が出来るまではやや戸惑いました。そのくせ多視点で描かれることでひとりひとりが多角的に描かれてるってわけでもないし。
というわけで、16人の男子(+女性コーチ)が登場するので数人はモブ扱いになるのは仕方ないと思うのですが、中でもメインであるハルとカズ、もう1つの軸であるイチローと弦の区別がハッキリしてないってのが一番残念だった。どちらも「ライバル関係」であり特に後者はお互い複雑な環境を抱きながらもでもお互いがいなきゃダメだという萌えしかない関係なんだけど、具体的に「絵」が浮かばないんだよなぁ。それぞれ登場時にチラっと外見描写があるだけで、それ以降は特別「キャラ」を補強する材料が与えられないから想像(妄想)できない。例えば癖とかさ、そういう細かいディテールをちょいちょい織り込んでくれたらもっともーーーーっと楽しめたのになぁと残念でなりません。
ていうかこのチームには王子様のごときルックスでありながら私服が「激ダサ」というなかなか美味しい設定の人物がいるのですが、その設定を物語の中で全く活かせてないのよっ!!。女子にキャーキャー言われるでもなし、イケメンなのに私服がダサいからモテないでもなし、設定がただの設定でしかないのよっ!!。つーか「王子様」って具体的にはどんなだよと!!。
大会で演技とそれまでキーアイテムとして描かれていた「ノート」にそれぞれが書き続けた「想い」をシンクロさせたのはすごくよかった。書かれてることもさすが同年代の作家だけあってリアルだと思ったし。
で、結論としては作者が「若い男性である」ってことが全てかなと・・・。そういう素養がない人が「チーム男子もの」を描くのは・・・というか求めるのは難しいのだろうなと・・・。