本多 孝好『WILL』

WILL

WILL

葬儀屋の森野が主人公の物語です。「MOMENT」の続編ではなく姉妹編という位置づけになるようで、あれから7年後を描いた作品です。
客から持ち込まれたいくつかの相談の中に潜む真実を、森野が根気よく丁寧に探っていくといういわゆる日常の謎モノではありますが、余韻を残すラストシーンの印象が強すぎるのでミステリーというよりも森野という女性が紆余曲折(というか一人でウジウジ考えてたってだけだけど)の末に幸せを選んだ物語といった感じです。
だとすると、女性としての森野の心情にあまり共感ができなかったのでイマイチかなぁ・・・という評価になるんだよな。一歩を踏み出す勇気が出ないってのは分かる気がするんだけど、7年間にあったことは森野の回想の中でしか窺い知ることができないわけで、いわば森野フィルターがかかってる状態なのです。相談者として森野の高校時代のクラスメイトである女性が登場し「カッコよかったから当時森野のことが嫌いだった」というようなことを言うのですが、私もそうで、将来について悩む30を目前にした女にしてはカッコよすぎるんだよね、全ての言動が。顔に出さず自分の心の中だけで悩んでるってことからしてカッコよすぎる。反感さえ抱いてしまうわけです。そんな女の悩みなんて知っちゃこっちゃないしって感じだし、そもそも森野の目からみた神田という男が私の中にいる当時の神田と同じようでいて微妙に違うってのが不満・・・とは違うか、寂しかった・・・かな。
でもミステリーとして読むと、特にそのクラスメイトがもたらした事件というか謎は雰囲気があって面白かったと思う。まぁ森野が首突っ込みすぎな感は否めませんが。それと、真実が明らかになってみたら謎でもなんでもなかったわけですが、「想う人」はバンドメンバーの活躍を含めて爽やかかつ甘酸っぱくてこれまた面白かったです。
あー、つまり森野の物語として読まなければ面白い・・・ということか。