伊坂 幸太郎『ゴールデンスランバー』

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

仙台市内で仙台出身の若き首相・金田の凱旋パレードが行われていたその時、青柳は大学時代の親友・森田とともにいた。だが森田の様子がおかしく、別れ際には「金田は暗殺される。そしてお前がその犯人・オズワルドにされるぞ。だから逃げろ」と真剣な顔で言う。その時さほど離れてないところで爆音がし、金田勢いに押された青柳が乗っていた車から降りると銃を構えた警官たちがこっちを見ていた。金田の言葉を思い出した青柳はわけもわからずひたすら逃げ続ける。


「魔王」で描いたようなナショナリズムの話なのかと思いきや、それがなんだったのかは闇の中だが“巨大な権力”によって仕組まれた陰謀の主役に仕立て上げられたちょっとイケメン青年とそれを助ける愉快な仲間たちってな感じの物語でした。イケメンはかなり重要なキーワードです。相変わらず一見なんの繋がりもなさそうな事柄が終盤でぐんぐん回収されていく様はウットリしてしまう手際の良さなのですが、なんていうか、真っ直ぐすぎる。真っ当すぎるんだよな。これまでのどの物語よりも話の筋がシンプルって言ってもいいぐらいストレートな物語で、逃げるイケメンの物語だけに疾走感だったりクライマックスの公園のシーンなんて思わずIWGPを思い浮かべちゃったぐらいの爽快感だったんだけど、ひねくれた部分も欲しかったんだよな・・・。伊坂に対してはわがままいいたいわたし。
とかいいながら、「人を殺すことはあっても、痴漢はしない」という青柳父の

人を殺すのが正しいとは思わない。ただな、自分の身を守る時だとか、たとえば、家族を守る時だとか、そういった時に、相手を殺してしまう可能性がないとは言えないだろう?本音を言うとな、俺はそいうのはアリだと思ってんだ。(中略)ただ、痴漢ってのはどう理屈をこねても、許されないだろうが。痴漢せざるをえない状況ってのが、俺には思いつかないからな。まさか、子供を守るために、痴漢をしました、なんてことはねえだろ。

これ、ニヤニヤしながら妙に納得したんだけど、この父親の「痴漢嫌い」がラストシーン(の一歩手前)に繋がった瞬間、涙がボロボロボロってこぼれました。ちくしょー、伊坂憎いぜこのやろー!