三上 洸『マリアの月』

マリアの月

マリアの月

画家としてエリートの道を進み続けながらも現在はある理由で自分の絵を描けないでいる本庄敦史は、師匠の推薦を受け知的障害者更正施設「ユーカリ園」でアートワークグループの講師をすることになった。ユーカリ園を訪れた敦史は、水しぶきの中で美しく純粋な笑顔ではしゃぐ少女を見た。その少女・現在22歳の河合真理亜は幼い頃の事故で頭部を打ったせいで後発性の精神発達遅滞となり言葉を発することができない状態で、ユーカリ園で暮らしている。真理亜に絵を教える敦史は真理亜の絵の才能にいち早く気付くが、その圧倒的な画力は真理亜の持つ直感像記憶能力=カメラアイによるものだった。そして真理亜は1枚の絵を描く。その絵とは、真理亜が目撃した殺人現場を詳細に描いたものだった。その絵が真理亜と敦史を巨大な権力争いの渦に巻き込んでいく。


序盤から中盤あたりまでは、真理亜を軸としてユーカリ園の仲間たちが巨大壁画に取り組む姿を指導者である敦史の目線で描き、そこに淡い恋愛模様も加わり、わりとゆったりしたペースで進むのですが、オトコマエの狂信者が登場する中盤以降はばりばりのB級アクション小説(若干ホラー入り)のようで、柔と剛というか静と動というか、そのギャップが面白かった。途中悲しい犠牲もあったりするんで勧善懲悪ってわけでもないのですが、でも収まるところに綺麗に収まった感じで、読後感はむしろ爽やかというか清々しい。ぶ厚さと装丁のせいで手にとるのを躊躇った人には思い切って読んでみても損はしないと思います!と自信を持って背中を押してあげたい。