鳥飼 否宇『異界』

異界

異界

明治三十六年。那智勝浦で奇怪な少年の姿が相次いで目撃される。証言によると、少年は鶏や兎を襲い、まるで獣のように吼えるといい、村人たちは狐憑きだと噂する。そのさなか、とある病院で乳児が何者かに攫われる。その知らせがもたらされた場に居合わせた博物学者・南方熊楠は、弟子の太一とともに事件解決へと乗り出すが・・・。


南方熊楠という実在の人物を軸に、土着信仰、狐憑き、サンカと呼ばれる山の民などなど、鳥飼さんならではの薀蓄(笑)と横溝世界のようなおどろおどろしさが見事に融合した本格伝奇ミステリです。
面白かった。薀蓄はまぁ半分以上が頭に入りませんでしたが・・・・・それでも南方熊楠という人物に興味があることもあって(といっても、金城一紀さんのゾンビーズシリーズに登場する好きな人物が「南方熊楠のミナカタです」って自己紹介するからなんだけど・・・)薀蓄部分にいつもよりもちょっとは耳を傾けられたような気が。
南方先生とその弟子・太一との掛け合いがなかなかコミカルです。二人の関係性やフィールドワークの様子なんかはちょっと雰囲気が京極作品の多々良先生と沼上くんに似てるかも。事件自体はさほどでもないんだけど、その根底にあるものはかなりドロドロとして陰惨なのですが、二人の飄々としていてある意味天然な空気がそれを中和してて、テンポよく読めました。
個人的に狼少年の話(狼が来たぞー!じゃない方)に弱いので、太郎の気持ちを思うとちょっぴり泣きそうになりました。