深町 秋生『ヒステリック・サバイバー』

ヒステリック・サバイバー

ヒステリック・サバイバー

アメリカでスクール・シューティングに遭い心に傷を負って帰国した和樹は、トラウマを抱えながらも学校に通い始めたが、その学校ではスポーツ系とオタク系の間に深い溝があり、激化する対立構造の中に和樹もまた巻き込まれていく。そんなある日、スポーツ系の生徒が改造銃で連続して狙撃されるという事件が起きる。お互いが相手に対して疑心暗鬼を募らせる中、オタク系生徒がついに行動を起こす。中立の立場を貫きたい和樹は戦いをとめることができるのか。


若干ネタバレあります。


読み終わった後、ほんとに本をぶん投げたのは久々です。本はできるだけ大切に扱いたいんだけど、これはどうにも我慢できなくて「なんだよこれーーーーーーーーーーー!」と叫びながら投げてしまいました。ああすごかった・・・。このミス大賞受賞作家なのですが、受賞作はまあまあだったし、この作品も冒頭のスクール・シューティングの場面まではすごく面白かったからこれはいいかも!って期待したのが間違いでした。主人公がアメリカで体験した悲惨な出来事は文字通りの人種の違いが原因で、日本での体験は嗜好の違いからくる考え方の不一致=人種の違いが原因。理由は違えど意味合いは同じ。自分と違う他者を拒絶し受け入れることができない子供達とそれを止めることができない大人達。テーマ自体は悪くないはずなんだけどな。普通の少年だったのに、悲惨な事件に遭い、全くの異文化の中にほうりこまれ心を閉ざしていた主人公が争いを止めようと思う理由づけが弱いし、具体的に何したかと言えばひたすらボコられてるだけなんだもんなー。心境の変化もなんだか唐突。家族との関係描写も適当すぎる。リンチまがいの暴力を振るわれたあと母親にどう言い訳しようか悩むという描写があるんだけど、家に帰ったら母親はいなかったで終わり。他にもそういう中途半端な描写が結構あって、そんなら書くなよ!と思いっぱなしだった。
思わせぶりに挿入される各地の新聞記事も強引な結末に対してのとってつけみたいで到底効果的とは言えないし、そもそも終わってみればいじめる側といじめられる側の対立じゃなくて、いじめられる側の中の親の権力が子供の関係に影響を及ぼした末の仲間割れですからね・・・。着地点はそこじゃねーだろー!と。暴力振るわれまくってたオタク少年達全然報われてないじゃないかと。フォローなし。面白くなりそうなテーマだっただけにほんと残念。