黒川 博行『アニーの冷たい朝』

アニーの冷たい朝 (創元推理文庫)

アニーの冷たい朝 (創元推理文庫)

大阪北部のアパートでセーラー服を着せられた看護婦の死体が発見された。続いて女子大生、OLの格好をさせられた第二、第三の死体が発見される。いずれの死体も、頭部を除く全ての体毛をそられ、念入りに化粧が施されていた。制服マニアの犯行なのか?次に狙われるのは誰か?捜査が進むにつれ、事件の背景にはデート商法の影が見え始める。大阪府警捜査一課村木班谷井刑事がこの猟奇的な事件に挑む。

<警察小説コレクション>としてこれまで7冊刊行されたものとはかなり違うタイプの作品です。警察の視点だけでなく犯人の視点でも描かれていて(前回刊行された「切断」もそうだったけど)、警察小説というよりも、犯罪小説と言ったほうがぴったりくる感じ。黒川作品の大きな魅力である主人公コンビの軽妙なやり取りは一切ないし、犯人の視点に加えて、恐らく被害者になるであろう女性の視点でも描かれるという3本柱の作りで、登場人物(警察に限らず)の魅力や捜査の過程よりも犯罪そのものにスポットがあたってます。性的な猟奇殺人犯、いわゆるサイコ殺人鬼を追う過程で浮かびあがるデート商法という知能犯罪という2段構えになっていて、話がダレないところはさすが。
ただ、15年前に書かれた作品だけあってサイコ度低すぎだし、デート商法もいまいちピンとこないせいで、言い方悪いけど犯罪の魅力には欠けると思った。3つの視点のバランスを取る為に、わざと刑事たちを淡々と描いたんだろうということは分かるけど、やっぱり漫才のような会話がないと物足りないなぁという気がしてしまう。後味もすっきりしない。作風の転換期にあたる作品らしいので、模索状態だったのかなぁと思う。もちろん面白くないわけじゃないんだけど、ついつい大きな期待をしてしまうのです。