沙藤 一樹『新宿ミルク工場』

新宿ミルク工場

新宿ミルク工場

ある日、ビルの屋上で出会った二人の女、ある晩、廃工場で出会った二人の男。
現状から逃げ出す為の死。絶望の果てに紡ぎ出された「魂の再生」の物語。


読みやすい。沙藤一樹だとは思えないほど読みやすいし分りやすい。
これまでの作品は「人と目を合わさない」という印象が強く、透明な箱の中に沙藤一樹の世界があって、他人(読者)は見ることはできるんだけど、触れることができない、そんなイメージだった。そういう距離感が、沙藤一樹を好きな理由。言ってみれば片道切符。
この作品は、その逆。透明な箱を中から叩いて、触れて欲しがってるように思えた。勝手に変化というか進歩というか、こっちの心の準備が出来る前に変わんないでよってちょっとだけ思った。でも、沙藤一樹らしさは薄れてしまったけれど、こういう物語を沙藤一樹が書いたということに意味があるんじゃないかな。思ったよりも、悪くない気分だった。
ハッピーエンドもアンハッピーエンドも、そこで物語を終わらせたというだけで、その先は逆転するかもしれないと登場人物に語らせている。そう考えると、描かれた結末を素直に受け取るわけにはいかないよなぁ。だって沙藤一樹だもん。