彩の国シェイクスピア・シリーズ第34弾『ヘンリー五世』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

これはもう、キャスティングの勝利だな。

2013年に「ヘンリー四世」でハル王子を演じた松坂桃李が6年経って名君と名高い「ヘンリー五世」としてこの劇場に戻ってきた。この事実が全て。

『あの』ハル王子が『この』ヘンリー五世になった。これがもう直結してるんだもん。

6年前、若さとエネルギーが迸るハル王子を演じた松坂桃李は6年経って苦悩しつつも民を率いて戦う王を見事に演じてる。

松坂桃李の成長がそのまんまハル王子の成長として舞台の上に表出してるんだもん。

これには胸を熱くせずにはいられない。

黒マント姿は桃李の初舞台である銀英伝のラインハルトを彷彿とさせるし、これまでの桃李がぐわんと思い出される瞬間がちょこちょこあったりして、そのたびに桃李良い役者になったよなーって何度も何度も何度も思いました。

ラストシーンは「ヘンリー四世」で蜷川さんが演出した舞台と同じ(ような?)セットで、ハル王子と同じく白い衣装と黒いブーツを身につけた桃李がコーラス(説明役)として舞台上に居る鋼太郎さんを見てふわっと笑うという演出なのですが、これは泣く。

そこにフォルスタッフの姿を見て笑うハル王子としても泣けちゃうし、蜷川さんの演出で吉田鋼太郎という役者に体当たりでぶつかった松坂桃李が蜷川さんの跡を継いだ吉田鋼太郎の演出の元これだけ堂々と主演であり座頭として舞台に立っている、鋼太郎さんの期待に見事応えてる、という目線でも泣かずにはいられない。

正直言うと、鋼太郎さんの演出はあまり好みではないところがありました。具体的にはネギ。ネギを食べるところまではいいんだけどピストルの頭をネギでぼかすか殴るのは見ていて楽しいものではなかったです。こういう「アホな儀式」をすることで、戦争というものをあらゆる意味で静め鎮める意図があるのかなと、そのあとのイギリスとフランスの和睦、争いはいずれ終わるし、終われば手を握り合い肩を抱き合うことができると、その前フリであり民レベルの和解としてのネギ祭りでもあるのかなと受け止めはしましたが、全体の四分の三ぐらい戦争してるんで、ここで張り詰めた糸を緩めるためにはこれぐらい振り切ったコメディ演出が必要だとしても蜷川さんだったら“こういう演出”にはしないだろうなーと。

だけど最後はしっかり決める。しっかり締める。松坂桃李の姿を通して蜷川幸雄を感じることができる。演出家としての吉田鋼太郎が意図したものはこれだろう。

そしてそれには松坂桃李の成長が不可欠。

最後にもう一度書きます。桃李素敵な役者になったよね!。この作品を観ることができてほんとうにうれしい。