ミュージカル『キングアーサー』@新国立劇場 中劇場

いきなりですが、わたしのアーサー王伝説?物語?の知識は

・カリバーンを抜いて王となる
エクスカリバーを手に入れローマ皇帝を倒してヨーロッパ制覇
・円卓の騎士団を作る
・訳あり息子のモルドレッドと争ってかろうじて勝利
・でももうダメだってんでエクスカリバーを返してアヴァロンで死にました

と(間違ってるかもしれないことも含めて)この程度でして、興味レベルとしても円卓の騎士団>>>>>アーサー王 ぐらいの感じなので、思い入れなどは皆無です。
で、それがよかったのだろうか?ここ1.2年で観たホリプロ制作の新作(FONS、JTRあたり。COLORは別枠で東ラブは観てないです)のなかでは一番好きかも!ってぐらい楽しめました。

理由としてはキャストみんなビジュアル(衣装やメイク)がキマってるし、ストーリーが単純で引っ張られることがないのでいい意味で気楽に見られることと、なんといっても曲がイイ!。
時代的・世界観的に嫌いではないもののストーリーには多分さほどの興味はないだろうと思い当初はWキャストをそれぞれ1回ずつ観られるようチケットを取ったんだけど、思いのほか曲が良くて(事前に聞いていたのはアーサー王のソロ曲とメレアガンが「取り戻せ俺の・・・プライド!」って言う曲ぐらいだった)、特にアーサーの異父姉であるモルガンの曲が、なかでも復讐すべく手を組んだモルガンとメレアガンが手下を従え♪ダンダリダンダリダンダリダン (これで合ってんのかわからんw)と歌い踊る曲が好きすぎて、この曲目当てにリピチケをついつい買ってしまったという(完売してるほうが興行側としては楽でしょうが、気に入ったらスケジュールが合う日をリピチケできるって、観客からするとありがたいし健全な環境だと思います)。モルガンとメレアガンの背中合わせめっちゃ滾る。

でもね、でもですね・・・曲に関してはひとつだけ言いたいことがあってですね、ケイ役の東山光明さん一曲も歌わないの・・・・・・・・・。
アーサーを思って歌う「兄」としての曲があるだろうと、みっちゃんの歌が聴けるってのもこの作品を観ようと思った理由の1つだったんで、初見時は呆然としたよね・・・歌わんのかいって・・・。
ストーリーが単純でいい意味で気楽に見られると書きましたが、単純だけどカロリーはすこぶる高いんですよね。基本場面は全部濃いw。
そのなかでみっちゃんのケイと石川禅さんのマーリンがテニミュで言うと日替わりシーンみたいな感じで「繋ぎ」を担いつつ適度にクールダウンさせてくれるんで出番は多いし、コミカルな演技(力)を買われてそこを任されたであろうことは喜ばしいことなんだけど、でもせっかくの歌唱力を活かさないのはもったいないと思うの・・・。


ここでこの舞台のストーリーを簡単に説明しますね(これから舞台を観る人は飛ばすことをお勧めします)。


魔法使いマーリンがサクソン人の侵攻からケルト民を守るために先代王の息子・アーサーを探し王にしろとドラゴンに告げられるところから物語は始まります。
国ではウーサー王の死後王が不在の状態で、次の王となる資格=石に刺さったエクスカリバーを抜く権利 を得るために我こそはと集まった騎士たちが「NO.1決定戦」を行っている。
メレアガンがNO.1となり、エクスカリバーを抜こうとするが抜けず、兄の付き添いでその場に居たアーサーはマーリンの導きによってエクスカリバーを抜く。
メレアガンは王の座だけでなく婚約者であるグネヴィアもアーサーに奪われてしまい、アーサーを地獄に突き落とし自らの人生(プライド)を取り戻すことを誓う。
婚約者としてグネヴィアがアーサーの城にやってくると歓迎の宴が催されるが、その宴に黒装束の女がやってきてこの国に伝わる物語を騙りだす。
それはとある女性に懸想した男が魔法使いの力を使い女性の夫に成りすまして凌辱する様を娘が目撃していたというもので、黒装束の女は目撃していた娘・モルガンであり、夫に成りすましたウーサー王に凌辱されて産まれた子がアーサー、つまり自分とアーサーは異父姉弟であると言う。
アーサーに復讐するために生きるモルガンは、グネヴィアに化けてアーサーの子供を身ごもる。
モルドレッドと名付けられたこの子がいずれアーサーを殺し王の座を奪うだろうとモルガンに呪いを掛けられ苦しむアーサー。
アーサーが苦悩する理由がわからず寂しさを覚えるグネヴィアは、王の騎士となるべくやってきたランスロットと出会い恋に落ちる。
ランスロットを証人にしアーサーとグネヴィアは結婚し、その後ランスロットは聖杯を探す旅に出ることに。
旅立ちを前にして、想いを確かめ合ったグネヴィアとランスロット。グネヴィアはモルガンに貰った「魂が永遠に結びあう指輪」をランスロットに贈る。
モルガンはメレアガンにランスロットに化けてグネヴィアを攫えと唆す。
捕らえたグネヴィアを甚振るメレアガンの前に現れたのはアーサーではなくランスロット
メレアガンに背後から切り付けられ重傷を負うランスロットの元へアーサーが駆け付ける。
ついにメレアガンとアーサーは一騎打ちで戦いアーサーが勝利するが、結局メレアガンは死に、ランスロットも死ぬ。
グネヴィアの不貞を許し自由にしてやったアーサーは、王として国民のために生きることを改めて決意する。


とまあこんな感じ。一言でいうならば「愛と欲望の物語」といったところなんだけど、主役である「アーサー」の存在が薄いことに気が付くでしょうか。
エクスカリバーを抜いた瞬間の「主人公感」はなかなかのものなのに、それ以降のアーサーはメレアガンから憎悪され、グネヴィアからアプローチされ、モルガンに騙され、ランスロットにグネヴィアを奪われると、ひたすら受け身なんですよね。

でもそんなアーサーなのにシングルキャストとしてしっかり舞台の真ん中にいる浦井健治はさすがの「王役者」感だし、伊礼彼方と加藤和樹のメレアガン、小南満佑子と宮澤佐江のグネヴィア、太田基裕と平間壮一のランスロットと、Wキャストはどこも全く違う役作りとなっていて、そこもこの舞台を愉しめた理由の1つだったりするんですが、これだけ違うWキャスト(の演技プラン)を成立させたのはひとえに浦井くんの「受ける力」だと思う。

小南さんのグネヴィアは天真爛漫で自分の欲望に素直な女性で、メレアガンから自分を救ってくれたアーサーに恋をしたけど、ランスロットのことを愛してしまったってな感じで、年齢で言うと17.8歳の小娘っぽい。
一方の宮澤さんグネヴィアはメレアガンと婚約するという運命を受け入れるしかないと思っていた自分を救い出してくれたアーサーに抱いているのは恩義で、ランスロットと出会って初めて愛を知った(それを理解している)という感じで、小南グネヴィアより5.6歳年上な印象を受けたんですよね。
で、それだけ違うグネヴィアなのに、浦井くんアーサーはブレない。アーサーはアーサーなんですよ。浦井くんがずっと主役として第一線にいるのは「これ」なんだろうな。

ていうか浦井くん、めちゃめちゃ盛れてた。観る前はビジュアル的にどうかなーーーーーーと思うところが正直あったりしたわけなんですが、しっかり仕上げてきてて、わたしは今回初めましてだった小林亮太さんという方(トライストーン所属で舞台版鬼滅の炭治郎を演ったとのことなんでこれからガンガンに活躍されることでしょう)のグウェインがシュっとしててすこぶる格好がよくてですね、グウェインはランスロットとシンメになることが多く、太田もっくんランスロと並んだ日にはそれはもう見目麗しいわけなんですが(壮ちゃんランスロは体格がね・・・)、そんな二人を両脇に従えても負けない浦井くんには心底感服した次第。

大田もっくんランスロットはもう一度言うけど見目麗しいんですよ。白い騎士服に白マントがどハマリしてて城の女官たちがキャーキャー言うのも超・納・得!!のビジュアル特化型ランスロットなので、小南グネヴィアは特に「一目見た瞬間から愛してしまった」という云い分に「でしょうね」となるわけです。ランスロットのどこが好きと聞かれたら「顔!!!」と食い気味で言うだろこの女(笑)と納得しかないw。
対して壮ちゃんランスロットは小柄な体格なのでマントがそこまで似合わない。だから女官たちが色めき立つのにもっくんランスロほどの説得力はないんです。
でもね、平間壮一と言えば「人たらし」じゃないですか。今回もそのパワーは有効で、小南グネヴィアも宮澤グネヴィアも「アーサーとは違う」からこそ壮ちゃんランスロットに惹かれたのだ、となるわけです。するっと心を奪われてしまうことに違和感を抱かせない。
つまりランスロット、どちらも良い!!!(結論)。


Wメレアガンの印象を一言でいうならば、伊礼彼方のメレアガンは「悪」で、加藤和樹のメレアガンは「闇」でした。
登場シーン(エクスカリバーを目の前でアーサーに抜かれるところまで)こそ「騎士感」がある彼方メレアガンですが、グネヴィアとその父を捕える次のシーンでは「あれ?これ北斗の拳だったかな?」と錯覚するほどの荒んだ暴力チンピラと化していて、ああこの人性根からして「ワル」なんだなってな感じなんですよ。
一緒にアーサーを地獄に落とそうぜとモルガンに誘われるのもノリノリで、伊礼メレアガンと安蘭モルガンコンビはまさに『ヴィラン』。
対して和樹メレアガンは次の王になるのは自分しかいないと信じ切っていたのにアーサーに奪われ、グネヴィアを奪われただけでなく騎士として任命しろと言われてしまい、奪われたもの=プライドを取り戻すためにどうすればいいかと思っていたところにモルガンから「魔女の囁き」を注ぎ込まれて一気に闇落ちしてしまう、という感じで、どこか苦しみのようなものがあるんですよね。それがアーサーに赦されてしまったモルガンの苦しみと共鳴し、和樹メレアガンと安蘭モルガンコンビは哀しみがあるんですよ。そう生きることしかできない憐れさがある。

浦井くんのアーサーはブレないと前述しましたが、安蘭けいさんのモルガンは浦井くんとはまた違う「受けの芝居」でこれまた見応えがありました。
ノリってか歌唱としては伊礼メレアガンとのコンビのほうが断然楽しいんだけど(メレアガンの曲は総じて変態曲としか言いようがないトンデモ高音曲が多いんだけど、伊礼彼方がここまで高音を歌いこなせるイメージはなかったんでうれしい驚きでした)、舞台としては和樹メレアガンのほうがバランスが良かった。


それから特筆すべきキャストとして工藤広夢さんの「鹿」と長澤風海さんの「狼」を挙げておかねば!!!。
二人はマーリンと同じ世界の住人であり、アーサー王の守り役として常にその傍に仕える存在なんですが、身体の使い方がとにかく絶品!!!。
最前列で観た回はここぞとばかりにお二人に注目して観たんだけど、一瞬たりとて集中が途切れずずっと「鹿」であり「狼」なのよ。ダンサーさんが此の世の者ならざる存在として作品を彩る演出は珍しくはありませんが、わたしが今まで観たなかでこの「鹿」と「狼」は間違いなくベストスリーに入りますわ。
「狼」はエクスカリバーの鞘としての役割もあるんだけど、ここぞというタイミングでアーサーの前にスッと跪いて背中を傾けアーサーにエクスカリバーを抜かせるの最高の極みだったんでぜひとも映像でほしい。無理ならせめて配信プリーズ!!。


てかね、この作品とっっっっにかくカーテンコールがカッコよかったのよ!!。
最後に最上段からアーサーが駆け下りてくると兵士たちが剣でアーチを作り、そのアーチをくぐってアーサーが真ん中に立つという、このカーテンコールがべらぼうにカッコよかったんで王家の紋章は見習おうな?。