『キンキーブーツ』@東急シアターオーブ

東京公演の感想でも書いたけど、とにかく面白かった。勝也さん演じるドンがスマホ片手に登場した瞬間から熱狂のカーテンコールまで、最初から最後まで楽しい楽しい楽しい!!!しかなかった。

ていうか自分でもびっくりしちゃったんだけど、わたし東京公演は1回しか観なかったんですよね。それから凱旋公演マイ初日までの間公式で見られるPVなんかは見てたし来日版の宣伝番組なんかも見たりしてたけど、でもそれって全てじゃないじゃないですか。美味しいところをちょいちょい摘まんで見せてくれるものじゃないですか。だから映像としては2時間ほどの舞台のほんのさわりを見ることが出来るだけなんですよね。そのはず。だからわたしが見たのは東京公演のたった一度限りのシーンのほうが大半なのに、凱旋マイ初日でわたし曲のみならず振りとか動きを結構なところまでしっかり覚えてたんですよ。それは決してわたしの記憶力が優れてるからなどではなく、たった一度だけでも脳裏に焼き付くインパクトとわかりやすさがこの作品にはあるからだと思う。
一度観ただけでそれだけ記憶に残せるならば1度で充分じゃないかと思われるかもしれませんが、これは何度も何度も観たくなるんですよ。だって楽しいから!!。休憩入れて2時間半弱もの時間をノンストレスで思いっきり楽しめるから。

ドラァグクイーンというマイノリティとされる存在が主人公(のひとり)ではあるものの、描いているのは『他人を受け入れろ』『なりたい自分になれ』『自分が変われば世界も変わる』という普遍的なメッセージ。ローラという“特殊”な存在を通して、保守的な考え方、凝り固まった価値観、そういうものを“抱いている側”が変わっていく姿を描いてるんですよ。ドラァグクイーンはそれをわかりやすく伝える(見せる)ための云わばアイコンであり、ローラ率いるエンジェルスたちのような女装(異装)性に限ったことではなく、あるがままの他人を受け入れるということは違う価値観を受け入れるということで、そういう価値観もあるんだと理解すれば違った世界が見えるようになるはず。ということなんだと思う。

この舞台に込められたメッセージは単純で純粋で、それゆえに力がある。人種とか性別とか年代とか、性癖とか嗜好とか、そういうの関係なく誰にでも届く。

で、それを最も体現してるのが「ドン」というおっさんなんですよ。ローラと出会ったことで誰よりも『変わった』のはチャーリーでもローレンでもなくドンだってのがこの舞台の上手いところだと思う。ジャイアンがそのまんま大人になったような男で、田舎の男が持ってそうな価値観の塊のような存在なんですが、そんなドンが「男」を賭けた勝負で勝たせてもらったことでローラの「あるがままの他人を受け入れろ」というメッセージの意味を考えるようになる。自分なりに考えた末にドンは視野が狭くなりすぎて従業員たちに暴言を吐き孤立してしまったチャーリーを助ける。舞台の上でドンが出した答え、ドンが受け入れた「あるがままの他人」がローラではなくチャーリーだってのが展開として上手い。ローラの想いがドンを通じてチャーリーを救うというこの展開がほんとうに素敵。

チャーリーとサイモンという二人の息子の物語とローラとドンという二人の人間の物語。両者のバランスが見事かつ分かり易くて、観ていてとにかく気持ちがよかった。

気持ちがよかったといえばセットを含めた演出です。いやあ、これほんと見事。舞台装置、美術の使い方が計算され尽くしてて暗転の間がまったくなくて、それが舞台のスピード感に繋がってた。わたしがこれだけキンキーブーツという作品を心から楽しめたのってブロードウェイ版のまんまだったってことがかなり大きいと思う。東京公演と凱旋公演の間に観た帝劇の舞台上がスッカスカだったことを思うとこれだけの大きさのセットをこれだけ上手く使えるのはやはりブロードウェイならでは、ということなのだろうなーと思わされました(来日版の宣伝番組みたらセットどころか衣装もまんま同じでびっくりしたわ)(なるほど、だから徹平がオッサンくさい恰好させられていたのかw)。

あ!初見では目が足りな過ぎて思いっきり見落としてたんだけど、コメントで教えていただいたボクシングのリング(ロープ)をエンジェルスのおみ足で演出する(足を支点(ポール)にする)の、これほんとにすごかった!。
ステージ前方でロープを巻き付けた足ピーンと立てた状態で微動だにせず、1Rが終わって2Rが始まると今度はやや後方目掛けてそのまんまぐるんぐるんって前転してまた足をピーンと立てるの!(説明下手でスマン)。次に観たときポールになりそうなものを探してみたんだけど、舞台上に使えそうなものってなかったんですよね。そこでエンジェルスちゃんのおみ足に目を付けるとか、こういうのはやはりセンスなのだろう。

ポール担当のエンジェルスちゃんをはじめリングアナ(レフェリー)だったりラウンドガールだったりゴングだったりとこの場面はエンジェルスちゃんたちが大活躍するんだけど、この舞台の中でエンジェルスたちの『想い』を直接描く場面ってないんですよね。ミラノのショーにプロのモデルではなくエンジェルスを使うべきとローラがチャーリーを説得する場面で「ミラノのランウェイを歩けるなら最高だからギャラはいらない」と言ったりするけど、エンジェルスたちが自分の想いを語ることはないんです。それがこのローラとドンの闘いをお膳立てし盛り上げる場面に詰まってるのかなーって。ローラを認めさせることは自分を認めさせることと同じで、だからエンジェルスちゃんたちはローラの戦いを全力で支え盛り上げるのかなーって。そう思いながら見るとこの場面のエンジェルスちゃんたちはほんとうにほんとうに可愛くて逞しくて美しい。


エンジェルスちゃんたちは勿論、キャストは皆さん最高に素敵でした。舞台上にいるひと誰一人「イヤだな」「嫌いだな」って思わないどころかもうみんな好き!!。
この舞台で唯一報われない存在なのが玉置成美ちゃん演じるニコラなんだけど、Raise You Upで誰よりもノリノリで踊ってるのみて「良かったー!」って思えちゃったぐらいみんな好き。

たぶんニコラも上司のひとと上手いことやってんだよね(笑)。給料3か月分の靴もきっと上司に買ってもらったんだよね(わたしはそう思った)。真っ赤なミニのワンピースで踊りまくる成美ちゃんニコラを見ながら、チャーリーより上司のほうが収入はきっと多いだろうしニコラのようなタイプの女はチャーリーみたいな男よりも上司のほうが幸せになれるって、あんた結果的に勝ち組だよ!!・・・とか思ってましたw。

そういう目線で見るとソニン演じるローレンもすごい勝ち組なのよねー。ローレンはチャーリーを“昔から知ってる”んだけど(幼馴染みたいな存在なのだろう)、ローレンにとってチャーリーは「ボンボン」だったんですよね。チャーリーは田舎町の靴工場とはいえ社長でローレンは従業員という関係だし、好きになったときは彼女持ちだったのに、なんだかんだでこれ社長夫人になるんだろう?。ローレン目線で見れば完全に玉の輿物語ですよこれ。
で、わたしこういう女嫌いなんですよね(笑)。いつも主人公の側にいて尽くしたり励ましたりするちょっとドジっ子が最後は主人公のハートをゲットするとか「ケッ」ってなもんなんですが、ソニンのローレンはあり。ぜんぜんあり。つーかこんな子憎めるわけがない(笑)。恐らくBW版の役作りに寄せられるだけ寄せたと思うんだけど、声なんか結構作ってて完全にコメディポジションなのですが、こういう役やらせたらソニンはほんっとに巧いよね。この役をこういう形で成立させられるのはソニンならではだろう。

つーかあれよね、観てる間はぜんぜんそんなこと思ったりしないんだけど、チャーリーって男としては結構クズよね(笑)。でも観てるときはぜんぜんそんなふうには思わない。だって演じてるのが小池徹平だから。
これまで舞台上の徹平くんを何作品か観てますが、歌(曲調)含めチャーリーがいっちばん「合ってる」と思った。所謂「ニン」ですわ。

ドンやローレンと幼馴染とはいえ社長の息子と従業員の子供として育ってきてるわけで、従業員たちと「同じ」ではないんだよね。そして婚約までした女に「ロンドン生活は僕の夢じゃなくて君の夢だ。僕は君の云う事に従っただけだ」とか言えちゃうこと。この坊ちゃん感と冷酷・・・ってのは言い過ぎだとして、淡白さ、かな。可愛い顔して結構キツイよねーって感じがぴったりだった。

あとなんといっても身長な。映画を見た限りではチャーリーが小柄というよりローラが大柄・・・いやむしろ巨体と表現したくなる感じでしたが、身体作って大きくしたとはいえ春馬はそこまで“大きい”わけじゃないよね。でも徹平くんと並ぶと大きく見える。春馬の大きさが引き立つんです。それを意図してのキャスティングかどうかわかりませんが、徹平チャーリーと春馬ローラのサイズ差はすごくよかった。


というわけで春馬のローラ。最高でした。どんなことばをどれだけ言い連ねても足りないから『最高』とだけ言っておきます。

「ローラ」ばかり注目されてるけど、「サイモン」のときもすき。ローラのときは誰よりも力強く自信に満ち溢れているのにサイモンのときは誰よりも弱くて脆くて、このときのサイモンを見てるだけでローラになる前の、サイモンでしかなかった頃の苦しみが伝わってくる。もうね、見るからに冴えないんだよね。ローラはあんなに素敵なのに、女装を脱いでヒールを脱いで化粧を落としたらこんな冴えない男なのかよと。つーかそこにいるのは三浦春馬なのにぜんぜんカッコよくないの。だけど愛おしい。Land of Lola でド派手に登場したローラのなかにサイモンがいる。ゆえに愛おしい。

わたしがこれまでみた三浦春馬のなかでローラの春馬がいちばんすき。ていうかローラがすき。春馬のローラがだいすき。

三浦春馬」を観にいくつもりでチケットをとりましたが、舞台が終わるころには「ローラ」を見てたよね。「春馬」じゃなくて「ローラ」に夢中だった。
・・・でもカテコになるとたちまち三浦春馬になるんだよー!金髪で赤いキラキラミニスカドレスにニーハイなんて格好なのに男子バリバリの春馬になるんだよー!!クッソ卑怯!!!。

春馬は作品に恵まれないなーって勝手に絶望したりしたこともあったけど、ローラでチャラですわチャラ!。春馬がローラをやるために必要だったと思えばこれまでのあれもこれもぜんぜん受け入れられるし、この先絶望しかけてもまたローラを観られると思えばぜんぜん大丈夫ですわ。オウこれが「世界が変わる」ということか!!(自分の世界スケールの矮小っぷりにぜつぼうだけどw)。