東出 祐一郎『ケモノガリ』

ケモノガリ (ガガガ文庫)

ケモノガリ (ガガガ文庫)

どこだかで“極限状態に置かれる中で大切な少女(少年)を守るため悩み苦しみながら戦うことを選択する少年(少女)の話は以前からあるが、昨今はそこで戦う=人の命を奪うことについて悩まず、それができる自分を迷わず受け入れる主人公による物語が目につくようなってきた”・・・的な評論を目にし(ちなみに悪い書き方ではなかったです)、その代表格として私の大好きな深見真さんのヤングガン・カルナバルシリーズとともにこの作品が紹介されていたので手に取ってみました。初めての作家さんになります。
修学旅行の最中突然クラスごと(バスごと)拉致され、有無を言わさず“殺人ゲーム”に巻き込まれるというありがち過ぎる設定ではありますが、まず主人公チーム以外が全員殺害済みから始まることに潔さを覚えました。一応主人公チームの一員である学園のスター(イケメン)に恋する女子の殺されながら彼を想う心情は描かれてますが(これとてもバトロワです・・・)、ほぼ事後。で、最後に残った主人公チーム(男子4・女子2・担任1)と人狩りを行う「クラブ」との死闘が描かれるのかと思いきや、あっさり担任が殺されるのはいいとして、イケメンまで早々にやられたのには驚いた。驚いたというか、勿体ねええええええ!と思った。主人公チームの内訳が、大人しいけどナチュラルボーン殺戮マシーンの主人公、頭脳明晰容姿端麗運動神経抜群のスター、気が強くて美人の帰国子女ツーテール女子、いるだけで周囲を癒す主人公の幼なじみ女子、細いのと大柄の凸凹コンビ男子とまぁテンプレそのものだもんで、ハイスクール・オブ・ザ・デットみたいにそれぞれが特技や知識を活かしてチーム戦っぽい感じになるんだと思いこんでたんだけど、ここで判った。これはとにかく“異形の主人公”だけを描いてる作品なのだと。
その主人公は今のところは好きでも嫌いでもないかなー。これまで特別な訓練を積んできたわけでもなければバトルものが好きでその種の知識を自然と蓄えていたとかそういうことは一切なく、ごくごく普通の穏やかな少年が愛する幼なじみの少女の危機となるや否や殺戮マシーンスイッチが入って3階から飛び降りちゃうぐらいなんでもう笑うしかないんだけどさ、でもこれまで主人公が“普通”でいられたのは幼なじみが鎖と輪になり異形の自分を普通に繋ぎとめておいてくれたからで、その少女を守るためにもう戻れないと判っていながら自らそれを解き放った・・・ってのはちょっとロマン(笑)を感じた。で、「クラブ」の存在及び活動内容を知ってしまった幼なじみが口封じされることを防ぐために主人公はたった一人で世界中に散らばるクラブの会員(社会的地位のある大人たち)を皆殺しする旅に出ると。うん。ロマンだね(笑)。