樋口 有介『雨の匂い』

雨の匂い

雨の匂い

樋口 有介の王道パターンって感じの設定。日常を淡々と生きている「男の匂いがしない」主人公の大学生のお話。「あの日、雨が降っていなければ、誰も殺されなかった。」帯にあるこの文が、とても痛い。
この作品はちょっといいかも。私の中では、乙一本多孝好伊坂幸太郎といった作家と同じ感覚で読んでいるのですが、これはかなり好きです。物語はすごく淡白に進むのですが、一つ一つのエピソードや人物設定がちゃんとしているので、小さな山がいくつかあって、その中にちょっといいなと思う言葉があったりするのです。「思考が発酵してる」って言い方、とても好きです。謎やミステリ的な仕掛けがある訳ではないけど、立派な犯罪も(犯罪がではない)描かれていて、しかも多分それは続くのではないかと思うところもあって、救われない。冒頭、心変わりした彼女のことがあるのですが、単に主人公の人物造詣の一部としてのエピソードなのかと思っていたので、救われないと感じる理由にそれもあるかも。前述した作家に共通して、会話が薄っぺらいとかいう批判を見かけたりしますが(乙一は違うか・・・)、そういうことを言う人に読んでみて欲しいかな、と。そして相変わらずタイトルが素敵なのです。