誉田 哲也『背中の蜘蛛』

背中の蜘蛛

背中の蜘蛛

池袋の路上で死体が発見され、その捜査主任である本宮は上司から被害者の妻の交友関係について自分の発案として内密で調べるよう指示を受ける。結果妻の関与が明らかになり事件は解決。それから半年後、今度は新木場のライブ会場で爆破事件が発生し、捜査員の携帯にある男を調べろとタレコミが入り、こちらもその男が犯人であった。両事件とも突然の「情報」により犯人逮捕となったことに本宮は疑問を抱く。

警察による国民の「監視」を警察内部から描いた作品で、情報化社会における新たな犯罪に対抗すべく警察内でも秘匿とされる「運三」を巡り警察官たちがそれぞれの想いの元動くのですが、運三の存在、その捜査手段が許されるのか、ということを運三の特殊性ゆえにハードすぎる勤務環境を含め描きつつ、一見事件(警察)とは無関係に思えるある男と姉弟の出会いと交流が描かれるのです。当然それが「無関係」であるはずがないので(小説だからね)このパートが本筋にどう絡むのか?という興味で読み進めたわけですが、その男が表舞台に出るとそれまではそれこそ「国家レベル」のスケールだった物語が一気に「個人」の話になっちゃうところが面白かった。

警察(国)による通信やプライバシーの監視・管理については今放送中のドラマでもやってることだし、特に目新しいネタではありませんが、何億単位であろうシステムが底辺で生きる姉弟を救うための数千万を作るために利用され、そしてその発端、そもそもの始まりは一警察官の職権乱用による横暴であったという話の落差、中盤まではガチ硬派であり「もしかしたら現実も・・・」という空恐ろしさを抱かせる話だったものが、読み終わってみれば愛する女を奪われた男が守りたいと思える存在と出会う物語であり、現実を知ってなお高潔であろうとする警察官たちの物語であったという、この畳みかたが娯楽小説としていつもながら見事。一応の理由付けというか言い訳はあるものの、捜査の現場で結構なポジションの二人がバリバリ張り込みしてる(できちゃってる)ことはさすがにどうかと思ったけど(笑)。