長沢 樹『幻痛は鏡の中を交錯する希望』

幻痛は鏡の中を交錯する希望

幻痛は鏡の中を交錯する希望

予科院」という諜報員養成機関があって、そこに特殊な才能を見込まれ強引に入れられた主人公。「院生」と呼ばれる諜報員の卵たちはそれぞれ異なる「課題」を与えられ卒業試験に挑むが、通常であれば各地で行われるはずのそれは今回“特区内”にある学校でまとめて行われ、そこでは公安外事、陸自二別、刑事部情調がそれぞれの思惑・目的のために“現役”を送りこんでおり、主人公に与えられた課題は『暗殺されること』。この課題を前提とし、主人公は誰に(どこの機関に)なんのためにどんな形で暗殺されるのか(どんな形で暗殺されるのが『正解』なのか)、という物語。
冒頭である場面が描かれ、それが院生たちに与えられた「課題」の背景にあるのだろうということは予想できるのですが、世界観はともかく人間関係がわかりづらい。誰が「院生」なのかもはっきりせず、どんな「課題」を与えられているのかもわからず、そんな中で登場人物たちが心理・肉体を駆使して駆引き・取引きするところが読みどころなのでその解り辛さは“あえて”のことなのでしょうが、主人公が居る場所の他にもうひとつ舞台となるところがあって、そこで進行している物語との繋がりは明らかなのに、どう繋がっているのかがなかなか見えてこないこともあって結構なイライラでした。
でも読むのをやめようとは一瞬も思わなかった。面白いのかどうかすら、実を言えばよくわからなかったのですが、それでもページをめくらせる“何か”があった。
ていうか、普通スパイだの工作員だのを養成する目的って諸外国に対抗するためだと思うんだけど、これは国内で各勢力が鍔迫り合いしてる話なんですよね。一応国外の存在は匂わせてはいるものの、印象としては内向きの話なんです。そこが不思議な感じ。