小路 幸也『残される者たちへ』

残される者たちへ

残される者たちへ

団地という昭和の匂いがするある種閉鎖された空間を舞台にした小路さんお得意のノスタルジックな物語だとばかり思っていたので、中盤以降のトンデモ展開には驚きました。そして最終的にはすべて「表現する言葉がないからそういうものだと思ってくれ」で済ましちゃうところにも。こういう存在を扱う時って、作中にことこまかな設定を書き込む必要はなくてもある程度の説明は必要だと思うし、少なくとも作者の頭の中にあるであろうディテールを雰囲気だけでもつかませて欲しいと思うのですが、この物語に登場する「彼ら」に関してはそれこそ煙のようにぼんやりとしてしか感じられませんでした。それこそが作者のイメージですと言われたらそうですか・・・と言うしかありませんが。
とは言えこれはSF小説ではない(ないですよね?)わけだし小路さんの持ち味もそこにはないと思うので、それ以外の部分が良ければそれでいいのだと思います。でも残念ながらそれ以外もイマイチ・・・でした。展開としては波乱万丈というかかなり動きがある物語なのに、なぜか平坦に感じてしまったんだよな。これは視点となる2人の人物が基本的に冷静で常に自己分析や状況把握をしているタイプだからかな。別に熱く語ったり叫んだりして欲しいわけではないけれど、もうちょっとこの特殊な世界に引き込むような何かが欲しかった。