道尾 秀介『ソロモンの犬』

ソロモンの犬

ソロモンの犬

大学の同級生・智佳に恋をした秋内は、ちょっと変わり者だがイケメンの友人・京也に半ば引きずられるようにして、京也の彼女・ひろ子を通じ、智佳と会話を交わせる仲になるが、自転車便のバイトの最中、目の前で幼い友人の死を目撃してしまい、その死に直前まで一緒にいたはずの友人達が関係しているのではないかという疑いを抱いてしまう。


愛犬を連れた少年の死の真相を追究する形ではありますが、ミステリーの衣を纏った青春小説と言ったほうが相応しいかもしれません。一つの哀しい死をキッカケにして、多くはない登場人物の間でいくつかの恋と友情の糸が絡まりあうという感じ。さほど派手な物語ではないし、少年の死そのものも言い方は悪いけど特別な“何か”が感じられるわけでもないんだけど、思わずズッコケてしまうようなオチやある人物の秘密というか隠し事に対する伏線の張り方は見事なまでの微妙さ加減(褒めてます)だし、なんといっても犬の生態の絡ませ方が絶妙です。私はとにかく犬が関わる物語に弱いので、タイトルに含まれる「犬」がまさに「犬」だったってだけでもう降参です。犬はかしこいの。
犬が見分けられる色は、紫と青と黄色の三色だと言われているとか、普段はさほど吠えない犬が例えば郵便配達員が来るとかならず吠える場合、郵便配達員という存在は郵便物をポストに入れてすぐ引き返すものだけど、たまたま縄張り本能で吠えたときにそうなった(引き返した)ものだから、犬は“自分が吠えてヤツをここ(自分の縄張り)から追い出した”と勘違いしてしまい、その満足感に味をしめて、毎度郵便配達員に吠えるようになる。一方で郵便配達員は必ず犬が吠えたときに立ち去る。その繰り返しで犬はどんどん勘違いしていく。ご褒美が欲しくてお手を覚えるような“正の強化”に対して、これを“負の強化”と言うとか、なるほどねーと思いました。私の娘さんは特に宅配便の人というか宅配車のドアの開閉音に反応してワンワン吠えるのですが、なるほどこれかーと。だからどうすればいいという対応法は書かれていないのですが(笑)、理由が分かっただけでも勉強になった気分だし、こういう豆知識が単なる薀蓄に留まらず、ちゃんと筋に関係してるところが上手いなと。やっぱりこの人上手いって。