垣根涼介『ワイルド・ソウル』

ワイルド・ソウル

ワイルド・ソウル

夢の楽園と信じてブラジルへ移住した人々。だが実際そこは地獄だった。全て戦後の食糧難を逃れる為の日本政府の棄民政策によるものだった。四十数年たった今、日本という国への復讐が始まった!ってな感じの作品。中心となるのは日本政府(外務省)に向けて売る喧嘩なのですが、その元となる南米移民の悲惨な体験、生活、そこらへんはしっかり取材をした事実で読み応えがありました。復讐の内容も、イメージするようなテロと言うわけではなく人の血は流れない(多分)爽やかと言ってもいいようなものです。全体に流れる乾いた空気、颯爽とした感覚は前に読んだ「ヒートアイランド」と似ていて、この作家の特徴なんですかね。事件を捜査する警察側が甘すぎるというか、警視庁、警察庁両方の首脳が集まっている割にはへぼさ感があったりするし、その分復讐計画がよく練られてはいるということなんだろうけど、ピンとこないなぁってとこはあります。富士樹海はおもしろいと思ったけど。でもまぁドライブ感っていうのかなぁ、一気読みしてしまう勢いはあるし、犯人の一人であるケイのキャラは素敵だと思いました。ああいうのについ乗せられてしまうのって分かる気がする。エピローグでこの本の印象が全然変わってしまうのが、私としては残念。後味としてはいいのかもしれないけど、前半部分を考えるとちょっと軽すぎるんじゃない?と思ってしまいました。
とは言ってもおもしろいことは確かです。真保せんせーあたりが好きな人は読んでみてもいいのではないでしょうか。