窪 美澄『ふがいない僕は空を見た』

ふがいない僕は空を見た

ふがいない僕は空を見た

2011年度本屋大賞第2位・・・は見なかったことにするとして(私現在のところこの賞になんら価値を見出せないので)、タイトル買いした初めての作家さんです。事前に何の知識も持たずに読み始めたんですが、巻末の著者紹介に「妊娠・出産を主なテーマとし」と表記されているだけあって、非常に・・・生々しい作品でした。
以下、背景色で内容に触れてます




連作短編集なのですが、冒頭の「ミクマリ」で2009年に第8回女による女のためのR-18文学賞を受賞しているそうで、そこから各篇を派生させたのかなぁ?(書き下ろしのラスト1篇以外はケータイ小説として発表されたようですが)。男子高校生の目線でちょっと変わった年上女性との変態チックな、それでいて胸がキシキシするような初恋(脱童貞)物語として描かれた「ミクマリ」が、その年上女性目線として描かれ直された次の「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」で心ガシっと掴まれました。「既婚女性と男子高校生の不倫」というさして珍しくない事象が両当事者の目線でこうまで違う意味を持つのかと。
その後二人の行為が何者かによって周囲に知れ渡ることとなり、その騒動が男子高生に恋する女子高生、男子高生の幼馴染(男子高生)の視点によって描かれていくのですが、ここでそれまでの“痛くて切ない初恋物語”が一転するのね。“恋愛”なんてものは本来二人のものであるはずなんだけど、片方が(もしくは両方が)結婚という契約を結んでいるとなるとそうはいかなくて、それ故にむき出しの悪意を一方的に向けられることとなる。その悪意の源はそれぞれ違えど。
で、最後に助産師である男子高生の母親の視点を持ってくるんだけど、これが上手い・・・というか、それまで言ってしまえばセックス(性欲・性癖)の話だったものが途端に命の話に変わる、というか、どんなやり方であれ気持ちであれやることやった結果人間が存在してんだよなーと思わせてくれて、なんていうか・・・・・・毒が抜ける感じがした。それと同時にこの一連の話のそもそもの発端が「妊娠(できるかできないか)」という行為・・・というよりも仕事と言ったほうが相応しいと思うんだけど、そこにあったことを思い出し、『永遠に続く「環」』という言葉が浮かんだ。

ここまで。
確実に男女では思うこと受けとるものが異なるとは思うけど、映画を見たかのごとき読後感で、これはアタリでした。初めて手に取った作家さんの作品が自分にガッツリ“合う”って、とても幸せ。