三崎 亜記『失われた町』

失われた町

失われた町

30年に一度起こる町の<消滅>。忽然と失われる住人たち。原因も理由も分からない。消滅の<余波>を防ぐためにはその町の地名や住民の写真など、痕跡が分かるもの全てを消し去らなくてはならない。大切な人を失った者。帰る場所を失くした者。喪失感を抱えながら日常を送る残された人々は、失ったことを悲しむことすら許されない。町の消滅によって人生を狂わされた人々が、運命に導かれるように失われた町、月ヶ瀬に集う。


内容に触れてます。




この作者による初めての長篇小説ということになるのでしょうが、消滅した町<月ヶ瀬>を軸に、消滅した町の後片付けをする女性の話、町の消滅により恋人というよりも魂で結びついていた大切な人を失った女性の話、この世界では<分離>により人間が<本体>と<別体>に別れる(元は一人の人間だけど、二人に分かれる。当然容姿は同じ)ということがありえて、<別体>の妻を町の消滅で亡くし<本体>に会いに行く男性の話、月ヶ瀬の住人でありながら町の消失から逃れたものの、心は町に囚われ口が利けなくなり、月ヶ瀬の絵を描き続ける男性の話、西域にある居留地と呼ばれる特殊で閉塞的な土地で重要な役を担うも外への興味を捨てられない不思議なカメラマンの話、30年前の町の消滅の唯一の生き残りで、現在は消滅予知委員会のメンバーとして働く女性の話と、いくつものストーリーが絡まりあって一つの物語になる形なので、連作短編集のような感じです。この人の本をこれまで2冊読んでますが、どの作品も淡々とした日常に一つだけ奇妙な設定を置くことで、なんともいえない身近な不思議さだったり不条理さだったりを感じることが出来るところが魅力だと思うわけですが、今作はその奇妙な設定が多すぎる。そのさりげなさというか何の気なさがよかったのに、ここまでSF設定だらけだと持ち味の日常性がかえって邪魔になってしまうと思った。特に居留地の設定は過剰だったと思う。常に感情を殺し半ば諦めの人生を送る消滅の生き残りの女性が、幸せになろうと自ら行動を起こし立ち上がるためにあの場所(失われた町の人々はあそこで暮らしているんだよな・・・?)に行かなければならないのはいいんだけど、あそこまで不思議空間にする必要があったのかなという気がする。どんな理由があっても人はみんな悲しむ権利もあれば幸せになる権利もある、そしてそれは誰かがもたらしてくれるものではなく、自分の手で掴まなければならない・・・それこそこの物語の最大のテーマだと思うのですが、だからこそ日常の延長線上で描いてほしかったなと思った。

装丁が透明のカバーに人間の姿がプリントされていて、カバーを外すと人間だけが消える・・・と、シンプルなんだけど凝ってて、すごく素敵。こういうことが出来るだなんて、やっぱりこの人売れてるんだなー。