伊園 旬『ブレイクスルー・トライアル』

ブレイクスルー・トライアル  ~第5回『このミステリーがすごい!』大賞 大賞受賞作~

ブレイクスルー・トライアル ~第5回『このミステリーがすごい!』大賞 大賞受賞作~

IT業界において一大帝国を築く“ネクスト・ミレニアム・グループ”が主催する<ブレイクスルー・トライアル>。技術の粋をつくした難攻不落の研究所に侵入し、時間内に所定のものを持ち帰るというそのイベントの懸賞金は1億円。学生時代の友人同士である門脇と丹羽は、それぞれの事情を抱え、このイベントで勝利することで人生を変えようと目論み参加を決める。一方、窃盗を生業とする破風崎たちも盗んだダイヤモンドを追ってこのイベントに参加を決意。参加12チームが4つのグループに分けられる中、門脇たちと同じグループとなる。残りのチームは技術を盗もうとするライバル会社。それに加えて保険会社の依頼でダイヤモンド窃盗団を追う二人組とその父親であり頑固一徹な研究所管理人もイベントに集結。生体認証や対人警備ロボット、果ては番犬まで侵入者を阻むために設置された数々の障害を突破し、ミッションを成功させるのはどのチームか。


第5回このミステリーがすごい!大賞受賞作。セキュリティというある意味今一番旬と言える素材を上手いこと料理したなという感じ。ハイテク要塞の真ん中にあるお宝を頂こうとあらゆる便利グッズを駆使する飄々としたまぁまぁオトコマエ二人がメインで、運動能力よりも頭脳で勝負するあたり、読んでてルパン三世を思い出しました。それだけだと話が単調になるからか、ダイヤモンド窃盗グループや管理人とその娘という別の軸も用意されてまして、どっちも定番のキャラ設定ながらも悪くはないんだけど、横の繋がりが足りない。窃盗グループは周到に準備した上で仕事(盗み)に取り掛かるってタイプのわりには、いくら目的がトライアルの成果とは別のところにあろうとも、そっち方面の道具を全く用意せずに重火器だけでセキュリティアタックに挑むってのはちょっとなぁ・・・と思った。管理人の娘も唯一の女性、しかも美人というポジションがさほど生かされなくて残念。女性と言えば、門脇の元同僚の二人は登場人物紹介に入れるほどのものでもなかったと思うのですが。ライバル会社もせっかく3人とも同じようなビジュアルという面白設定を与えてるのに、まるでおまけのような働きしかしてなくてこれも残念。余計なことして掻き回し、結果的にメインの二人の足を引っ張るとかしてくれたらもっと動きが出たのにな。あと、そこまでした末の結末が尻つぼみというかストレートすぎたのも残念。もう一捻りあるかと期待しちゃったので。でもそこまで期待させるだけの魅力があったということだし、対静脈認証や対警備ロボットの描写はかなり面白かったし、読みやすかったのも確か。次作に期待します。