鳥飼 否宇『樹霊』

樹霊 (ミステリ・フロンティア)

樹霊 (ミステリ・フロンティア)

植物写真家の猫田夏海は撮影旅行の最中「大木が数十メートル移動した」という話を聞き、古冠村を訪れた。役場の職員である鬼木の案内で向かった現場は、アイヌ文化をメインとするテーマパークの為に乱開発された森だった。その日、建設に反対していたアイヌ代表の道議員が失踪する。次々と謎の移動をする街路樹のナナカマド。そして30メートルもの大木“フチ”までもが移動し、思いもよらぬ人物が墜落死体となって発見され、猫田は鳶山に助けを求めた。


<観察者>鳶山と植物写真家猫田の鳶猫シリーズ(と勝手に読んでます)。アイヌに言い伝えられる動く樹木の伝説や、何百年も生き続ける巨木を想像しながら読むと、幻想的な、そんなことがあっても不思議じゃないかも・・・なんて気になるのですが、でも鳶さんにかかると「この世には不思議なものなどないのだ」なんだよな。鮮やかかつ完璧な鳶さんの推理にウットリしつつも夢ないなぁ・・・という気分。でもそこがこのシリーズの魅力なのです。相変わらず猫田のちょっとズレてる一人ツッコミは微妙なところですが、今作は猫田のちょっぴりほろ苦いラブストーリー、旅先でのロマンスと読めなくもない。新鮮な驚きはもうないけど、シリーズものとして安定したかな。