田中 啓文『落下する緑 永見緋太郎の事件簿』

落下する緑 永見緋太郎の事件簿 (創元クライム・クラブ)

鮎川哲也氏絶賛の幻のデビュー作にはじまる本格ミステリ連作集。ジャズ馬鹿の天才テナーサックスプレイヤーが、天性の観察眼と洞察力で“日常の謎”を解き明かす。

田中啓文なのに駄洒落ありませんよ？
音楽好きなことは存じてましたが、これは趣味に走るギリッギリのところで踏みとどまってるって感じ。短編の合間合間に「著者おすすめジャズレコード情報」が挟まれてるけど、それでもギリギリ本格ミステリ連作集。ギリッギリだけど。語り部・探偵共にジャズミュージシャンなので、音楽や文学、絵画など芸術方面が舞台となることが多く、それぞれの短編のタイトル中に色が含まれていて、それが自然に嫌味なく物語のキーワードになってるところに著者のセンスが感じられます。文中、サラリと専門用語が出てきますが、それについての説明は一切なし。「興味を持ったら聞いてみて」ということなのだろう。とはいえ直接“謎”に関わるわけではないので、特に問題はありません。
芸術家ならではのエゴとプライドに触れて、なんとなくそういう雰囲気を味わって、音楽かけてお酒飲みながら読むと大人の世界に浸れるかもしれません。なんつって私は電車の中で読んだわけですが･･･。