東 直己『悲鳴』

悲鳴 (ハルキ文庫)

悲鳴 (ハルキ文庫)

新刊対策で再読。この畝原シリーズ大好きなのです。元はバリバリの新聞記者だったのに、罠にはめられ冤罪逮捕でクビになり、妻に逃げられ、現在は探偵業をしながら中学生の娘を育ててる見た目冴えないおっさんのお話。無茶な活躍をしないところがいいんだよな。できる範囲で精一杯信念を持って活躍してるとこがいいの。それでも充分かっこいい。それにものすごく周りの人間に恵まれてる。タクシー運転手の仲間(?)がいたり、男手一つで異性の家族を面倒みてるとか、地域限定探偵であるとかそこはかとなく濱マイク的。なかでもこの作品は簡単な依頼だと思っていた浮気調査が思わぬ事態に発展し、平行してバラバラにされた男の手足があちこちにばらまかれるという事件にも関わることになり、それが最終的に過去に起こった一つの痛ましい事件へと繋がっていくというもので、ミステリ的にも最後まで予測できない展開。愛すべき変人である協力者、娘、そして事件の結末が明らかになると、タイトルの「悲鳴」という言葉がとても痛くて哀しい。悪意の塊である人も、社会の隅でひっそりと生きる人も、みんな誰かを求めてる。シリーズものとしてではなく、この1作品だけでも傑作です。