横山 秀夫『クライマーズハイ』

クライマーズ・ハイ

クライマーズ・ハイ

日航機墜落事故を題材に地元新聞社の権力闘争や家族愛を描く著者渾身の長編作品、てな感じです。半落ちは私の中では短編に近いと考えているので、私にとっては横山作品初の長編です。警察が殆ど出てきません。まずそれにびっくり。てっきり墜落現場で取材する第一線の記者がメインでそれに絡んで警察の人間とか自衛隊の人間とかが出てくるもんだと思い込んでいたので。ここのところ何故か立て続けに横山作品を読んでいたので、その点はちょっと新鮮でした。新聞社内部の権力闘争や、紙面を決定するまでのやりとりなどの件は相変わらず熱いです。叫びまくり、はみだしまくりって感じ。ただ、短編作品で感じられるような凝縮感には少し欠けているかなぁと。枚数が多いから当たり前なのかもしれませんけど。それに、父と息子の関係が私には不要でした。日航機が落ちたのも山で、それとは別の軸として山を絡ませたいと思ったのかどうかは分りませんが、新聞社内の熱い物語だけで充分盛り上がったのにとか思ったりして。そっちのパートに比べて、父子関係パートは薄いというか書ききれてないと思うし、悩んだ上の結末もめでたしめでたしって感じで、で結局あなた自身は何をしたの?と言いたくなる。仕事に家族に悩む中年ってのが定番であるわけだから、必要な要素ではあるのだろうけど。
母親に貸したところ、既に心は映像化に向いているらしく「悠木さんは誰がいいかしら」と。確かに事故関係がクリアになるのならば映像化してもおかしくはないかな。横山秀夫は、受ける土壌ができつつあるもんね。