貫井 徳郎『追憶のかけら』

追憶のかけら

追憶のかけら

酔った弾みで風俗に行ってしまったという原因で喧嘩となり娘を連れて実家に戻っていた最愛の妻を、事故で亡くした国文学の大学講師。自らに落ち度がある上に、経済的問題があり、娘を妻の実家から取り戻すことができない。妻の父親は奉職する大学の有力教授。このままでは娘を引き取ることはおろか、職も失うことになるかもしれない。そんなところへ、戦後間もなく自殺した作家の未発表手記を手に男が訪ねてくる。その手記に秘められた謎を解くことを条件に、手記の発表を認められる。手記に秘められた謎とは?そして彼を翻弄する何者かの悪意。黒幕は一体誰なのか?二転三転する物語は感動の結末へ。 読み応え充分です。まず作中作である謎の手記がかなりおもしろい。昔の文字で書かれているのに、不思議と読みやすい。そしてこれだけでも充分謎なのに、さらに現在進行している、主人公を陥れる為に仕掛けられた罠もあるわけですよ。真相はこれだろーと思うそばからひっくり返されて、ああやっぱり心地よい・・・と思う。解けた謎、彼に向けられた悪意の種類は、どうしようもなく悪で、それでいてどうにもならない悪。苦いものを飲み込んじゃったような後味の悪さが残る。昔ならここで終わっていただろうけど、売れっ子作家になった今では違います。救いがあるのです。ハッピーエンドなのです。明るい未来が待ってたっていいよ。誰も好き好んでいやーな気分になるものなんて読みたくないもんね。たださぁ、最後に手紙が出てきて、それがいかにも感動を誘うようなものだってのはどうなのよ。そういう安易な手法をとって欲しくないの、特にこの人には。無理して男女の愛とか書かなくてもいいと思うんだけどなぁ。