「蜜蜂と遠雷」が『ピアノ』を描いた小説ならば、これは『バレエ』を描いた小説ということになるのだろう。
人間を通してピアノでありバレエそのもの描く恩田陸の熱量と技巧に圧倒される読書時間だった。
8歳でバレエと出会い15歳で海を渡りダンサーであり振付師として生きる「萬春」という人間を、彼に影響を与えた、彼をつくった者たちの視点で描く構成なので、萬春を『バレエの化身』として読み進めていたんだけど、最後の章はその萬春の視点で描かれるので、そこでハッと目が覚めるんですよね。この人人間なんだなって。
コンクールというわかりやすい盛り上がりのある群像劇であった蜜蜂と遠雷と違ってこちらは完全に一人の人間を描く作品なので、比較すると単調という印象にはなるし(主人公以外も優れた人たちばかりで才能がない人間が一人も出てこない!)、音が聞こえるようだった蜜蜂と遠雷に対してこちらは(バレエの知識がほとんどないので)作中で描かれる「作品」を想像することが難しかったけれど、萬春というキャラクターの魅力だけで一気読みするには十分でした。