堂場 瞬一『オリンピックを殺す日』

世界がコロナ禍にあるなかで強引に開催された東京オリンピックの最中に、元オリンピアンの大学教授が「オリンピックはもはや集金システムと化し、スポーツの祭典としての意義を失った」と発言しその後姿を見なくなった、という物語の始まりで、数年後、オリンピックにぶつける形で世界的大企業が「ザ・ゲーム」という世界規模の新たなスポーツ大会を企画しているという情報を入手した新聞記者の目線で描かれる「反オリンピック小説」です。

今まさに五輪関係者に複数の企業から賄賂が贈られていたことが次々と明るみに出ているわけで、確かにオリンピックというイベントの在り方についてそろそろ見直す時なのではないかとは思う、というか私はもはや「オリンピックとかもう止めたら?」と思っている人間なので(でもパラリンピックはやる意味も価値もあると思うので、オリンピックはプロが参加するサッカーやテニスやバスケやゴルフを除外し、大きな世界選手権大会が開催される水泳や陸上は種目を絞るなどしてスリム化して開催すればいいというのが私の考えです)、こういう小説が出版されることは歓迎です。
加えて、対オリンピックに限らずメディアの在り方についても斬り込んでいて、頷かされることがなんどもありました。

でも小説は小説、なんですよね。「ザ・ゲーム」のような運営方針で世界規模の大会が開催できるわけがないと思ってしまう。
そして小説なんだし現実はどうあれせめて主人公「個人の考え」としてでも作中で問題提起された「マスコミの関わり方」に対する『答え』があって欲しかったとも思う。