降田 天『さんず』

タイトルの「さんず」とは“死にたいと願っている者の元へ届くカード”によってのみコンタクトが取れる自殺幇助会社の名称で、カードのQRコードを読み込みアクセスするとやってくる“担当者”コンビが“客”の要望に応える連作短編集です。

この設定と帯にある『生きづらさを抱えた人々の人生が交錯する』の一文で本多孝好さんの「dele」みたいな感じかなと思いながら読み始めたんですが、deleが「死後」の物語であるのに対しこちらは「死に向かう」物語であるので、その点においては大きな違いがあるんだけど、大きく『死者』と括ることを許せば受ける印象は思った通りdeleと似たものでした。
つまり私の好み。
依頼人の物語を重ねた先に主人公コンビの物語がある、という構図もdeleと同じだしね。さんずの「社長」の正体については一ミリもその可能性を考えることがなかったんで驚いたけど。

「さんず」に依頼するときに自死を物理的に手伝ってくれる「もろともプラン」と自死を見届けるだけの「よりそいプラン」を選ぶことになるのですが、ほとんどの依頼人が「よりそいプラン」を選ぶところが興味深い。
主人公自身の物語が思いのほかエグくて、それだけに主人公(と依頼人)が出した現時点での結論にはいい意味で“この程度”のことで意志はひっくり返るんだなと思ったし、読み始めるときにはなんの冗談よと思った目次をめくると目に入る「いのちの窓口」(の連絡先)が、読み終わってみると一本の糸に変わった。

一番すきなのは「第三話」です。この偏執的な世界観はすごくすき。物語の仕掛けに繋がってることには気がつけなかったけど。