長浦 京『アキレウスの背中』


スポーツに特化した公営ギャンブルが行われることとなり、東京で開かれる国際マラソンレースが初の対象試合となる。国家の利権争いを背景に大会を妨害すべく日本最速ランナーとそれを支えるチームの開発情報をターゲットとする脅迫が届き、警察庁主導で特別対策チーム「MIT」が組織され、その班長として女性刑事が抜擢される。

という物語ですが、オリンピックというイベントをもはやスポーツの大会ではなく利権を貪る材料としか見られなくなっているので、作中の「オリンピック批判」にはぶんぶん頷いてしまった。

オリンピックだけでなくIR計画の失速から新たな公営ギャンブルの設立が加速した経緯とか、マラソンというスポーツの技術革新を含めたこれからの在り方等、適度の現実味(リアリティ)を織り込みつつも主軸は女性刑事とその部下たちのお仕事であり、女性刑事と日本最速ランナーが友情(特別な関係)を深めるところにあって、駅伝は(チームスポーツとして)(そこにある人間関係の妄想対象として)好きだけどマラソンは興味ナシな私ではありますが、練習から本番にかけてのマラソン描写含め隅々まで楽しく読めました。

それはキャラクターが良かったから。過剰に設定を与えるようなことはせず、それぞれの職務においてやるべきことをしっかりやる優秀な人間たちしかいないので、キャラクターに対するストレス皆無。
その点で言うと、主人公と母親の関係とかもっと抉ってもいいように思うけど、主人公からみた母親を描くだけで実際にその母親の姿が作中に登場することはなく、最後に主人公にとってそれほど大きな存在としては描かれていなかった父親との会話で「親子」としての必要な描写とするってあたりも計算なんだろうな。