福田 和代『ディープフェイク』

生徒間の暴力問題を身を挺して防ぎ週刊誌で取り上げられたことをキッカケに、熱血教師の「鉄腕先生」としてテレビにも出演する公立中学の教師・湯川が教え子とホテルで密会していたという記事が週刊誌に掲載される。続いて生徒に暴力を振るっている動画も拡散されマスコミもネットも一気に炎上するが、それらは全て湯川には身に覚えのないことであり「ディープフェイク」で捏造されたものだった。必死で否定する湯川だが事態はどんどんと悪化しテレビどころか教師の仕事も失いそうになる。

という物語で、ディープフェイクというAIをつかった画像合成技術があって、それを使えば素人目には判別がつかない動画を作ることができて、それをネットの海に放つにあたり身元を隠す方法はいくらでもあると、だから情報の真贋を見極める目であり意識を持たなければならないというテーマなので主人公の湯川が「仕返し」を思いとどまることは当然のことだとは理解してるけど、『小説』としては湯川の手で動画をアップしたほうが面白かったのに。
これだけディープフェイクによって苦痛を与えられ、自分の周りには信じてくれる人間がいてその中に問題に対する深い知識と技術の持ち主がいたから身の潔白を証明できたし教職に復帰することができたことは幸運だと自覚してるうえで、さあおまえの人生はどうなるだろうな?と自分を陥れようとした男の背中を見送る主人公・・・ってなほうが私は好み。