岩井 圭也『この夜が明ければ』

はじめましての作家さんです。

北海道の辺鄙な町で行われる期間バイトに集まった七人の男女。住み込みとして生活を共にしながらカラフトマスの下処理に励む日々だが、リーダー格の男が死体となって発見される。仲間からはシュウと呼ばれる男が警察に通報しようとするが、サトマリと呼ばれる最年少の女が警察への連絡を強硬に阻み、残りの仲間たちもみなそれに同意する。


以下は内容に触れてます。






という始まりで、娯楽もない北海道の港町で給料がそこそことはいえ魚の血と脂まみれの仕事をしようというぐらいなのでそれぞれワケありであろうことは明らかで、仲間が死んだあとは延々とそれぞれの「警察に通報されたくない理由」が他人によって暴露され、また自ら白状する話が続くんだけど、同情するところがなくはないそれらの事情はまあわかる(予想通り)として、それらはあくまでも警察に知られたくない理由であって『仲間の死』にはつながらず、ならばこの物語はどこへ向かっているのだろうかと思ったら、死んだ仲間が残してくれた1億円を持って『全員で逃げる』という結末だもんでびっくり。

仲間の死は保険金が絡む覚悟の自殺で、それが解ったのは仲間の一人の「盗撮癖」によってという展開の時点でマジかよ・・・と引き気味で驚いたけど、でも作中でもシュウがそう考えた通り盗撮癖がある女と実は元警察官であるシュウには逃げる理由はなく、ワケありとして集まった人間たちが仲間の死という大きな出来事に直面し、現実から逃げるという選択をしたここまでの人生・現状を否が応でも突き付けられるという経験を経て、それでも逃げ続ける者と残って人生をやり直す者がいると、そういう「分岐点」を描く作品なのかと理解しかけたところでの「全員で逃げる」ですもん。なんでそうなる!?。
しかもこのシュウという男はこの日が誕生日なんですよね。「今日は新しい僕の誕生日だ」って、いやいやいやいや清々しい感じになってんじゃないよ!と、なんでちょっといい話っぽく終わろうとしてんの!と突っ込みながらびっくりでしたわ。

しばらくはこれまで通り期間バイトとして生きていくとしても逃げる理由の切実さはそれぞれ違うし、年齢も性別も違う6人が一緒に逃げてこの先どうなるんだろう。1億という金は一人ならばそれなりの力になると思うけど6人じゃ心もとないし、1億の奪い合いになる未来しか見えない・・・。

あと出社したらバイトの一人が死んで残りは全員トンズラという現実に直面する雇用元の人たちがどれほどの迷惑を被るのかと思うと同情を禁じ得ない・・・。