『封刃師』第7話

「おにがみ」という名前を聞いた時「鬼神」という字が浮かんだんだけど、そうか「鬼噛」と書くのか。外道に堕ちた封刃師を斬るための刀は「縁斬」というらしいし、口に出しながら書きたいカッコよさだけどその意味を考えるとなんとも言えない気持ちになるよね・・・。

封刃師の「本家」である五百津家の人間ですら知らなかったというのに、「一記者」である三條の父がなぜ、どうやってそこまでを調べることができたのかはさておき、父の残した取材メモを精査した三條が持ってきた「鬼噛」とはなんぞや?という情報はというと

『ある企業が戦時中に穢刃を持つ人間に生体実験を繰り返して穢刃を作る刀を作ろうとした計画です。彼らはその刀を「鬼噛」というコードネームで呼んでいました。穢刃を持つ人間は殺傷能力が高く不死身です。白兵戦に投入できれば無敵の軍団になる。そのためには穢刃の出現をコントロールする必要があった』

というもの。
ここへきてまたすごい設定をぶっこんできたな!というところではありますが、穢刃と封刃師の戦いは法律ができる以前から行われていたことだということは既に説明されているし、肇が“おそらく裏で動いていたのは国だろうな”と推測したように、陸軍による人体実験という歴史をそこに結び付けることは容易であるわけで、このトンデモ設定が全く浮かない世界観作りの巧みさに改めて唸らされる。

で、なんでその「鬼噛」が肇が確かに斬ったはずの悟堂真の手中にあるのかはまだわからないけれど、とにかく鬼噛を使い穢刃を生み出しているのは「悟堂真」であることを関係者が皆知ることとなった。となれば駆がするのは「真さんの封刃」。だから鍛錬場でそのための準備をする。駆は真さんを斬るための、翔は駆を斬るための準備を。

2人の「構え」がまったく違うところが2人が背負う「役割」の違いを突き付けられるようで苦しい。
しかもその時鍛錬場の上では巳前と肇が「駆の後釜」について相談してるとかさあ・・・・・・。

「翔、そんなんじゃ俺は斬れないぞ」と言う駆に対し、翔は何も言い返すことができないんだよね。
きっと、駆ほどの『覚悟』が翔にはまだできてないんだと思う。本家の跡継ぎとして頭ではわかっていても、わかっているつもりでも、翔のなかでまだその覚悟が定まってはいないのだろう。
五百津堂の様子は地下のモニタで確認できるんだけど、このやりとりを駆と翔は聞いていたのだろうか。駆のためというより翔のために、肇がモニタを切ってくれていたことを願わずにはいられない。

穢刃を生むフードの男が悟堂真であると知った巳前はその行方を「絶対に見つけ出す」と言い切ったけれど、三條がもたらした情報の裏取りについては明らかに誤魔化した、もしくは取り繕ったような反応を見せたのは「鬼噛」についてなにか心当たりのようなものがあるからっぽいよね。演じるのが手塚とおるだもんで基本的に一挙手一投足が「怪しい」けど、このときは一際怪しかったもん。

三條を地下に連れて行き(封刃師にとって大切な場所であろう鍛錬場に入れたということは、駆にとって三條はもはや「部外者」ではない、ということなのだろう)、本来ならば一旦「預けられて」封刃師として教育されるべきところを真さんと肇の元で育てられることになった経緯について話す駆。

「実績あるあなたたちのことです、むげにはできません。ただ、困るのはあなた方ですよ」と忠告する巳前に対し、駆の肩をぎゅっと抱き寄せながら「承知してる」と返した真さん。

「その真さんが穢刃を生む男だった。だから俺は真さんを封刃する。俺の中の穢れは限界を超えるだろうが、翔が俺を殺してくれる」

そんなことを言われ「いきなりそんな、受けとめきれない」と言うことしかできない三條に駆はこう言うのです。

「受け止めなくていい。・・・ただ、気にかけてくれればそれで」

と。
このときの駆の顔、駆の目がもうなんとも言えない感じなんだよね。静謐というか無垢というか。
そしてそんな駆のことを「(三條に話をしたってどうにもならないことは)駆もわかってるよ。でも、この閉鎖的な世界の外に少しでも出たかったんだ。駆は元々外の人間なんだから」と、理解する翔。

「外の人間」という言い方に少なからずショックを受けてしまったのだけど、それは駆の置かれている状況に対してというよりも、その「閉鎖的な世界」から出ることを許されない翔の立場に思いが至ったからだと思う。
そうだよな。殺される者よりも、殺す者のほうがきっと辛い。
そこから逃げることを許されないならなおさら。
巳前の「困るのはあなた方ですよ」という忠告は、殺す者と殺される者を共に育てることで生まれる感情が後々皆を苦しめることになる、という意味だったのだろう。
こうなってみると、なぜ真さんと肇が駆を手元に置いて封刃師として育てることを(駆がそう望んだことはさておき)望んだのだろうかと問いたくなる。

真さんの居場所が判明し、カレンから師匠の寺で見つけた仏像で作った鎮冥鞘を受け取りその思いごと受けとめるようにひとつ頷く駆を、「縁斬」を持っていくよう父親から指示された翔に「頼むぜ、相棒」とあえての軽い口調で言う駆を、そして何も答えず黙って駆と共に出動する翔を見て、2人を共に育てた真さんと肇の判断は正しかったのだろうかと思わずにはいられない。そこにときめいているのだけれども!そんな翔にときめきまくっているのだけれども!!。

巳前の配下の者が悟堂真のアジトに踏み込むももぬけの殻で、「相手の動きの先を読め、読んだと思った先を読め」という教えを思い出し『狙い』に気づいた駆はついに真さんと対峙する。
(その前に三條とカレンの前に刃の先をコンクリートガリガリこすりながら現れた真さんがヤバすぎて震えたわ。よくある演出ではあるけどそれをやるのが坂口拓となるとガチ度が違う)
三條とカレンを守りながら縁斬を握る翔に一瞥をくれ「見ろ駆。俺を斬った刀でお前を斬るつもりだぞ。こうやってそいつらは俺達を捨て駒にしてきたんだ」と言う真さんに「あんたを封刃できればそれでいい。あとは翔がいる」と静かに返す駆。
「見事な飼い犬っぷりだ」と言いながらサングラスを外し、駆に斬りこむ真さんは、意図的に駆に「過去」を送りこむ。(そんなことができるのか・・・)


「その記憶を思い出すたび、お前の身体に穢れが溜まる。因果なもんだな。封刃の宿命?バカくせえ、結局誰も救えやしねえんだ。その挙句相棒に斬られる。なんてバカくせえ人生だ」
「それ以上言うな!」
「死にたくねえ。そう思ったらこの鬼噛を握ってた」
「あんたはそれに操られてるだけだ」
「それがどうした」
「それが・・・あんたの弱さだ」
「封刃するか、この俺を、お前にできるのか?」

五百津堂に迎え入れられ真さんに育ててもらった日々を強引に思い出させられたことで人崩れの印が首まで現れ身を捩る駆を見て「まずいな、もう限界だ」と割って入ろうとした翔に「もうその刃では俺は斬れん」と嗤う真さん。
それでも翔と2人がかりで、師匠の死を背負ったカレンの作った鞘で鬼噛を、真さんを「封刃仕る・・・!」となったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
と思った次の瞬間鞘から引き抜き返されるどころか鞘をへし折られるとかマジかよ!?と。
この瞬間凄まじい絶望に襲われたけど、真の絶望はここじゃなかった。

「どうだ?駆、お前の中の穢れが今にも爆発しそうだ。さあ来い!どうだ駆、これで俺と同じお前も外道だ」
「迷うな!駆!最高だぞ、昔の仲間に鬼嚙を突き立てるのは!」

と、鞘を失って無防備な駆の身体に鬼噛が突き立てられちゃった・・・・・・・・・。

薄暗い通路で苦痛に悶えながら「うあー」と叫ぶ駆のラストカット、これ予告でも流れてたんだけど、真さんを斬ったあと嘆いてるのだと思ってたんですよね。
だから穢刃になってしまう最初の衝動を乗り越えたのか、少し落ち着いたらしき駆の手に穢刃(の柄)があった瞬間の絶望たるや・・・・・・・・・。


いやさあ、駆がいずれ穢刃になってしまうのではないか?という予想(と期待)は初回の段階でありましたよ。2話でそのための相棒として翔がいるのだと知った瞬間はド興奮しましたよ。
でもこれはない。これはないだろう中島かずき!!(あえての呼び捨て)。
こんな形で駆が外道になってしまうだなんて、物語として考えられる道のなかで最悪じゃないですか。最っっっっっっっっっっっっ悪だよマジで。

だけど最高なんだよ・・・・・・・考えうる限りで最悪だからこそ最高なんだよ・・・・・・。

もうさ、「さあ来い!駆!」って両手を広げて煽る真さんとか「来い!太夫!」を思い出さずにはいられないじゃん。
自ら選んで・望んで外道に堕ちた蘭兵衛に対して信じた人によって外道に堕とされる駆とか、中島かずきのなかにはどれだけ早乙女太一を追い詰めるための引き出しがあるんだってな話。

予告でなんか襲ってたね、駆・・・。穢刃になっちゃったんだよね、駆・・・。

これからは駆を封刃しようとする二刀流(二鞘流?)の封刃師との戦いとなるのでしょうが(あ、今気づいたけどここからは「刀を振るう早乙女太一」のターンになるわけか。つくづく鬼企画だぜ・・・)、『五百津の本家』としては駆はもはや「翔の相棒」などではなく封刃の対象である「穢刃」でしかない、ということになるのかな。
「その時」がくれば駆を斬ること。それを自らの役目として生きてきた翔だけど、それこそ「こんな形」で駆が駆でなくなってしまうだなんて思ってもみなかっただろうわけで、そしてもはや封刃師ではない今の駆を斬ることは『翔の役目』ではなくなった、ということになるのではないかと思うわけで、でも“新しい相棒”に駆を封刃されることをみすみす「見守る」ことなど翔にできるはずなどないだろうとも思うわけで、誰よりも翔のメンタルが心配だよ・・・。

でもあれだな、「人を消さない鎮冥鞘」を作りたいというカレンの願いが『駆を救うための鞘』となるのかもしれないってのはわりと予想外というか、そっちにいくのかー!という流れではあるんだけど、鞘に「思い」を込めるなどという言ってしまえば漠然とした師匠のアドバイスが『駆を救いたい』という「思い」ということになるのならばそれはもう「思いこもってます!!」として実感も納得もできてしまうよな。

今は絶望のどん底状態だし、それを言うなら当初から駆の行く末には「翔に殺される」という結末しかなかったところが『カレンの作った鞘によって救うことができるかもしれない』という希望が生まれ、その時穢刃・駆を「封刃」するのは“本家の人間の役目は封刃ではない”という“掟”を破った翔であると、駆を救うためなら穢れに犯されても構わないと覚悟をキメた翔である、という可能性もみえてきたと思うの。
カレンと翔によって救われる駆を見せてくれていいのよ?たまには救われる早乙女太一を見せてくれてもいいんだからねかずきさん!。