千田 理緒『五色の殺人者』

五色の殺人者

五色の殺人者


第30回鮎川哲也賞受賞作。

小規模な高齢者介護施設で施設利用者が撲殺され犯人と思しき男が複数の人間によって「目撃」されるが、目撃者たちが証言した「犯人の服の色」はそれぞれ全く違うものだった。それも「赤」「緑」「白」「黒」「青」と全く違う色。という謎解きで、目撃者たちが施設利用者、つまり高齢者であり記憶能力に問題があるというところが鍵になるのかと思いきや、いくつもの偶然であり理由が重なり複雑な事件になってしまいましたという作品です。

作中で「メイ探偵」と呼ばれる主人公は二十代前半の女性で、事務職として働いていたものの遣り甲斐を感じることができず、介護職に転職してまだ数か月という人物設定なのですが、私はここがダメでした。まだ二十代だし仕事にやりがいを求めるところまではいいとしてもそこで「だから介護」ってところが気分的によろしくない。職員はみんないい人たちで同い年で気が合う同僚がいて、淡い恋心を抱く相手が犯人として疑われているみたいだから疑いを晴らすために二人で事件のことを調べよう!休日を合わせて聞き込みに行こう!ってどこの世界の話だよとしか思えなかった。

目撃者たちの証言が違う理由に“高齢であること”が含まれるし、事件の“謎度”が高まってしまったことも介護施設が舞台であり多忙で激務であることが原因なので、主人公が介護職であること自体は必要不可欠な要素なんだけど、「事務職やってたけどつまらないから介護職に転職しました」なんて甘っちょろい(とあえて言う)設定などではなく、「なるほど」と思える転職の理由があればおそらく印象は180度違うものになったんじゃないかな。

つまり主人公が気に入らなかったというだけで、ミステリーとしては地味で小粒な謎を程よく膨らませ綺麗に畳んだなという印象ですし、恋愛要素は基本「不要です」な私ですがこの作品は主人公が素人探偵として動く動機として必要なものなので、全体としては上手くまとまっているなという印象です。