穂波 了『売国のテロル』

売国のテロル

売国のテロル

  • 作者:穂波 了
  • 発売日: 2020/09/17
  • メディア: 単行本

始めましての作家さんです。

アフリカの漁村で発生したワクチンのない新型炭疽菌による感染症は世界中に広がり、その「感染源」の疑いでISSに調査が入るが、炭疽菌が発見されたのは日本モジュールからだった。世界中から生物兵器開発の疑いを掛けられ、総理や外務大臣炭疽菌により死亡し日本が機能不全に陥りかけるなか、陸上自衛隊で集団脱柵が発生。臨時政府は脱柵者たちを「黒沢一派」と呼び、「敵」と見なし調査を開始する。

という話で、パンデミックものや生物兵器ものが好物で、高度な戦闘訓練を受けた軍人たちによる殺し合いもまた好物の私なので、これはもうドストライクでしょう!という気持ちで読み始めたのですが、新型炭疽菌との戦いというよりも特殊作戦群に所属していた十数人の兵士が軍艦島がモデルと思しき「要塞島」で自衛隊と戦う話であったことも含めて面白くは読めました。
作中で「フレンズ」と呼ばれる組織の正体と(これはまあ、定番なので思った通りでしたが)、「黒沢一派」のなかにいるかもしれない裏切り者は誰だ?という謎と、一応主人公ということでいいのでしょうか?元自衛隊員で現宇宙飛行士の炭疽菌に犯された妻の死期が迫っているというタイムリミット要素もあり、エンタメ度は思った以上に高かったし。

でもやっぱり今の心情として「世界中を襲う病」の話を純粋に楽しむことはできないんだなーと。

そして、現状ではたった「7つ」しかないワクチンを誰が使用するか?というのが物語の肝で、この作品ではとても・・・美しい(という表現でいいかな?)選択であり結末として描かれますが、10年前の日本であればそういう選択ができると思えたかもしれないけど今は絶対に無理だろうとしか思えないことも気が滅入るよね。国に対して期待も信用もまったくできなくなってしまったもの。