輪渡 颯介『悪霊じいちゃん 風雲録』

悪霊じいちゃん風雲録

悪霊じいちゃん風雲録

薬種屋の跡取り息子・伊勢次と貧乏御家人の七男・文七郎の共通点は「祖父の霊が見える」こと。2人はそれぞれ幽霊となった祖父からあれこれと無理難題(主に幽霊方面の)を押し付けられて・・・という物語ですが、一応章立てにはなってるものの皆塵堂や溝猫長屋や怪談飯屋と比べて各章内での「結」がさほどはっきりしておらず印象としては長編という感じなので、これはシリーズ化する予定ではないのかな?。ふたりの「じいちゃん」が成仏せず孫の前に姿を現すことや、文七郎とじじいとの戦いも決着がついていないので続編の構想はあると思うのだけど。

シリーズ化してるものと同様に幽霊や怪談を扱ってはいますが、「人死に」はないのもこの作品の特徴です。幽霊が現れる背景には当然人の死があるんだけど、この作品では直接それが描かれることはありません。あるのは死者の魂を冒涜してでも己の芸術を極めんとする人間の執念。加えてそれを荒っぽい手段を使ってでも蒐集したい人間の欲望。
それらがこの世からなくなることはないわけで、幽霊が現れた理由を見つけて犯人がいるならビシっと仕置きしてはい解決!とはならないぶん、闇の濃さはこれまでで一番かもしれない。