中山 七里『テロリストの家』

テロリストの家

テロリストの家


公安に所属し国際テロ捜査を担当する幣原は、イスラム国関連の任務から突如外されるが、理由が解らないまま数日が経過した後、息子がテロリストとしてイスラム国の兵士に志願した罪で逮捕される。職務上家族にも所属先や勤務内容を教えていなかったため逮捕により公安であることが明らかになると家族からは「息子を売ったのか」と非難され、世間やマスコミからは「非国民家族」として悪意を向けられ、職場でも白い眼を向けられた幣原は自ら釈放された息子の監視を申し出る。

仕事ではエリートや敏腕とされている父親が、子供が罪を犯したことでそれまでとは逆の立場に置かれてしまったり、それまで家族と向き合ってこなかった事実を突きつけられたりといった作品はちょっと思い出そうとしただけですぐいくつか浮かぶぐらいなので、設定としては「よくある」ものだと言っていいと思うのですが、この作品の特徴としては「テロリストに志願した息子」が何も語らないままサクっと死んでしまうところにある。

それにより、息子、ひいては家族について何も知らなかった父親の話だと思っていたものが、息子を殺した犯人を探す刑事の話になり、でも突き止めた犯人であり動機は小説としては「なんだ、そんな人か」という人物で、でもまあ幕引きとしてはこういう形しかないのかなーと思いながら残り数ページを読んだら本当の「真実」、そして「地獄」がそこにあった。

途中で兄妹(主人公の子供たち)が幼いころの辛い経験が回想として挿入されているのですが、息子の葬式の一件でそれについては回収されたと思ってたんで、それが最後の最後にこういう形で「妹思いの兄」と「いじめられた記憶を引きずったままの妹」として真実の補強となるのはさすが中山さんといったところ。