芹沢 央『僕の神さま』

僕の神さま

僕の神さま

  • 作者:芦沢 央
  • 発売日: 2020/08/19
  • メディア: 単行本

帯に「あなたは後悔するかもしれない。第一話で読むのをやめればよかった、と」と書かれているのですが、後悔はしなかったけどまあそれに近い読後感。

小学校五年生の少年が主人公で、亡くなったお祖母ちゃんがお祖父ちゃんのために作った“桜の塩漬け”を床に落として台無しにしてしまい、学校で「神さま」と呼ばれどんなことでも解決できちゃう水谷くんに相談するのが1話目で、ちょっと切ないながらもあったかい物語です。仔猫も出てくるし!。
続く2話も小学生という時代だからこそのデリケートな“事件”を解決してみせたところまではよかったんだけど、その事件をキッカケにして同級生の川上さんが神さまに父親の素行についての悩みを相談するところから雲行きが怪しくなり、お祖父ちゃんのために桜の塩漬けを作り拾った仔猫はとてもかわいいという始まりが、父親に虐待を受け続け飼い猫を見殺した罪悪感に苛まれ、父親の事故死を意図的に導こうとした少女の話になるとは。

さらに「大人」に頼ったことで酷い現状が少しはましになったと思いきや、主人公たちが運動会の騎馬戦で盛り上がってる背後で「川上さんは父親に殺されてしまったらしい」という噂が広まり、主人公が「現実」を知ることになるわけで、三人の小学生の物語は残酷でした。独りで苦しみを抱え続けていたのではなく、大人に助けを求めた結果がこの現状ってところがどうしようもなく残酷。

いちばんの謎は主人公の神さまであった川上くんがこの歳にして他人の悩みを聞きその謎を解き明かそうとすることは他人の人生に関わりその結果に責任を負うことだと覚悟をしたうえで、誰かが助けを必要としているなら助けようとする、そんな子供である理由だよなぁ。そして主人公がこの歳ですでに「その隣に立ちたくても立てない」と理解してしまったように、孤高で孤独な人生を歩んでいくのだろうと思うとそれもまた残酷。