月村 了衛『暗鬼夜行』

暗鬼夜行

暗鬼夜行

作家を目指し文芸誌に一度だけ掲載されたことがあるものの、現在は中学教師で、恋人の父親が県会議員であることからその跡を継ぎ政治家になるべくまずは教育委員会入りし・・・という敷かれたレールから外れないようしがみつく男が主人公で、読書感想文コンクールへの代表作として選ばれた作品が盗作であると生徒間のLINEに書かれたところから物語が始まります。

盗作疑惑が囁かれる生徒の担任であり部活動の顧問であることから感想文の指導にあたり、書きあげるまでの過程を見守り続けたという主人公の言い分が「嘘」でないならば盗作の事実はないだろうと、読者目線ではそう思えるので、盗作の有無を追求するのではなくこの年代特有の生徒間(女生徒間)のドロドロした感情を描く作品なのかと思いきや、統廃合に伴う学校の廃校問題が絡みだし、廃校推進派と反対派による争いに教育委員会と議員の癒着などというキナ臭い話になっていき、それらがSNSやネットニュースで暴かれ、なるほどそういう話ねと一気に「盗作問題」に話が戻って、気が付いたら「人間は暗鬼」という結末にたどり着いてました。

半分ぐらいは正直あんまりおもしろくないな・・・と思ってたんですよね。まず「読書感想文」の盗作ってのが地味だし、発端こそ月村さんがLINEという現代を象徴するような素材を使ってどんな物語を作るのだろうかとワクワクしたものの教師たちがヤイヤイ言いあってるだけで、繰り返しますが「盗作」の事実は「ない」という読者視点での認識があるもんだから話が進まないと感じてしまう。
でもそのうち廃校問題=大人の思惑が絡みだし、駆け引きが描かれるようになると、主人公はもはや言われるがまま流されるがまま翻弄されるしかなく、この物語は一体どこへ向かっているんだろうか?となったところで一気に「すべての始まりは主人公の言動であった」ことが明らかになるんですよ。

もはや「終わった」主人公に向けられる悪意の塊、そして「犯人」による「自白」からの急展開がすさまじすぎて、「読書感想文」からよくぞこんな暗黒物語を作れるな・・・と、主人公の印象が読み始めたときと読み終えたときでこうまで違うってマジかよ・・・と、読み終えた瞬間真顔で引いた。教師を主人公、教育現場を舞台にした作品で、主人公がこういう精神状態で物語を終えるだなんて想像できないもん。