稲羽 白菟『仮名手本殺人事件』

仮名手本殺人事件 (ミステリー・リーグ)

仮名手本殺人事件 (ミステリー・リーグ)

まさかミステリにおける屋敷の間取り図?平面図?と同じ用途で使われる旧歌舞伎座の座席表を見る日が来るとは!。

歌舞伎座で「仮名手本忠臣蔵」の上演中、歌舞伎の重鎮である役者が花道に引っ込んだ先で絶命する。さらに客席でも観客が死体で発見される。という始まりなので『歌舞伎座の客席』を密室として描くための座席表かと思いきや、座席の「位置」が謎解きの肝になるという、歌舞伎好きとしては興奮しかない作品です。
しかもただ殺人舞台装置としての「歌舞伎(座)」ではなく、ちゃんと歌舞伎の家、血筋、歌舞伎という特殊な世界でなければ成立しない話であり、タイトルにある「仮名手本忠臣蔵」が物語と密接に絡んでて、そこに「梨園の女たち」の情念が渦を巻くわけですから「歌舞伎を題材にしたミステリ」としてお見事!!というしかありません。
まあ、舞台の最中で事件性のある死を遂げたとなれば捜査上のこともあるし上演を継続することはできないのかもしれませんが(そんな前例はないのでわからない)、親や子が死んでも舞台に立ち続けるのが歌舞伎役者なので、事件のあと探偵役と共に聞き込みに回るどころか二泊三日で旅行にでかけちゃう御曹司には違和感というか、それはありえなくない?という気はしましたが、片岡千之助さんで読んだのでアリ!ていうか許す!!(笑)。