
- 作者:近藤史恵
- 発売日: 2020/01/29
- メディア: 単行本
大学を出て就職したものの心を壊して退職し、現在は都内の実家で家事の対価として僅かなお小遣いを貰う無職の二十七歳の女性が主人公で、ある時祖母から自分の代わりに芝居を見に行き感想を聞かせて欲しいというバイトを持ち掛けられるところから物語が始まります。その話を受けることにした主人公の元へ送られてきたチケットは歌舞伎で、ビビりながら歌舞伎座に出かけた主人公は幕間で客の不審な行動を目撃し、それを隣の席に座っていた五十代の男性に相談するがトラブルに発展。主人公は成り行き上それを最後まで見届けることになる。さらに別の日の観劇バイトでもその男性と遭遇し、今度は降ってわいた主人公自身のトラブル解決に協力してもらう・・・という流れなので、毎度毎度トラブルに巻き込まれる主人公を「歌舞伎座の快紳士」が助けてくれるミステリーなのかと思いきや、よく言えば歌舞伎(観劇という行為)を知ったことで再び生きるための活力を得て無事社会復帰を果たす女性の物語、有り体に言ってしまえば一人の観劇オタクの誕生物語でありました。いやマジで。
私も初めて見た歌舞伎で「こんなに面白いものなのか!」と衝撃を受け、それからかれこれ20年ぐらい懐事情が許す限り歌舞伎を観ている歌舞伎好きの端くれなので、主人公の行動、思考に軒並み「いいね」押しまくりたいし、小説の中とは言え歌舞伎好きが増えて嬉しいよ!という気持ちしかなかったもん。
主人公の再生物語と平行して「快紳士の正体」という柱もあるのですが、そっちも「チケット買って貰えるとかいいなー」という目線になっちゃいますからね。オタクってそういうもんよね。
作中に『好きなものがあれば、少しだけ生きることは容易くなる』という一文があるのですが、ほんとそれ。
その時々によって「少しだけ」だったり「ずいぶん」だったり「まあまあ」だったりはするけれど、好きなものがあるからこそ毎日を乗り越えることができている。それはほんとにそう。
だからこそ、今の状況が苦しいってのもそうで。好きなものを心から楽しめる。好きなもののために生きることができる。はやくそうなるといいんだけど。歌舞伎観たいよー!。