『シャボン玉とんだ 宇宙までとんだ』@シアタークリエ

1988年に音楽座の旗揚げ公演として上演され、以降も継続的に上演されていた、主演の井上芳雄さん曰く「日本オリジナルミュージカルの傑作であり宝物」である作品だそうですが、わたしはミュージカルを観るようになってまだ日も浅く、音楽座という劇団?の名前は聞いたことがあるもののこの作品のタイトルは知らなかったというレベルの観客なので、もちろんのことながら今回が初見でした。
そんなわたしがなぜこの作品を観たいと思ったかと言えば、それは井上芳雄さんであり濱田めぐみさんといった「豪華なキャスト」をシアタークリエというさほど座席数の多くない劇場で観られるなんて!と思ったからなのですが、それを差し引いても観ることができてよかったし、見応え・聴き応えがありました。今もテーマ曲なのかな?虹色の~シャボン玉~そらまで飛ばそう~♪という曲が頭のなかで鳴ってるぐらい。

でも好きか嫌いかといえば、好きじゃない・・・・・・かな。

そこまで前のめりで評判や感想を確認したわけでもないのに「大絶賛」「大評判」の空気はひしひしと感じてまして、キャスト目当てのわたしですら作品自体に結構な期待をしていたせいかもしれませんが、「愛こそすべて」のストーリーがダメでした・・・。宇宙人はむしろ好きだったし、なんなら内藤くん演じるミラが佳代を庇って刺されるところで泣きそうになったぐらいだし(でもわたしこれミラは死んだんだと思ってて、寿命は人間(地球人)の1000倍でも不死身ではなく人間と同じく刺されたらあっけなく死んじゃうんだな・・・と、その憐れさにこみ上げたところがあったんで、ラストでオリーとともに復活したのにはゆーあんちゃんとお佳代はミラとオリーのなかで生き続けるのだと、そうやって命は繋がっていくのだという終わり方を否定はしないものの若干裏切られた感があったんですけども・・・)、この宇宙に生きる存在はすべて繋がっている、あなたもわたしも宇宙人というメッセージ(大雑把な表現で申し訳ない)は素直に受け止められたんだけど、愛のためならなんでもできる的なところが好みじゃなかった。

宇宙人に助けられたゆーあんちゃんは1週間程度の時間しか経っていないのに対し(宇宙船のなかと地球上では時間の流れが異なるから)獄中の佳代は10年経っていたと、出所した佳代は10こ歳を取ったのにゆーあんちゃんはぜんぜん変わらないと、だから「時のずれを合わせるために今度は佳代が宇宙船にのって1週間程度の旅行に出る」と、それはゆーあんちゃんにとって「10年待つこと」だと、『10年待てますか?』『待ちます』という、おそらくココがいちばんグッとくるところなんじゃないかと思うのですが、わたしはココが理解できなかった。10年のズレぐらい別によくない?。逮捕時に佳代が何歳でゆーあんちゃんが何歳だったのかわかりませんが、佳代のほうが年下だろうし(わたしはそう思ってみてました)、10年の時間差で歳の差が逆転したって別にいいじゃんと、なんでそこ合わせなきゃなんないの?と、周囲がハンカチで口を押えてエグエグとなるのを必死で堪えてる様子のなか、わたしはそこにロマンを感じることができなかったのです。

それでも、最初に書いたように観ることができてよかったと思うし、満足感を抱えて劇場を出ることができたので、それはつまり「良作」ということなのだろう。好きじゃなくともいいものはいい。好きな話じゃないからって、つまらないわけじゃない。そういうことなんだよね。
それを隅から隅まで巧いひとたちが演じているんだもの。佳代にスリをさせないために50万というそこそこ大金をあげちゃう宇宙人とか(その金どうやって工面した?)、50万もの大金の出所を佳代に問うことなく(そういう場面はなく)アメリカに行っちゃうゆーあんちゃんとか、そのテレビ「BS放送」映るんだ・・・?とか、佳代を守るために隣の部屋に住み着いてるんだろうに佳代を食い物にする養父が訪ねてきて佳代を犯そうとしてるときは現れずに「ビールでも飲もうよ」と佳代が養父から離れて包丁を持ち出して刺そうとしたときにようやっと部屋に押し入るとか宇宙人つかえねえええ!とか、佳代のことをあんなに可愛がり佳代が殺した養父がどんな人間だかも知ってるはずの喫茶店のマスター夫婦や常連客が手のひら返しで佳代を見捨てるのとか、引っかかるところは結構あったりしたんだけど、その引っかかりは集中の妨げにはならないんですよ。不思議と流せてしまえる。それはやっぱり話の骨格がしっかりしていて、そのなかで演技巧者たちがそれぞれそういう人間としてナチュラルに存在しているからじゃないかな(めぐさんと圭吾さんの夫婦なんかエロかった・・・w)。「宇宙人」というファンタジーな存在ですら、万能じゃないから愛おしいと思える。


というわけで、役者の皆様は総じて素晴らしく、ここまで全員が高水準の舞台というものもそうはないという意味でもほんとうにいいものを観た!という感じでしたが、なかでもお佳代を演じた咲妃さんと里美を演じた仙名さんのお二人にはわたしのなかの「元ヅカ」のイメージをぶち壊されました。もちろんいい意味で。咲妃さんはまさに体当たりの熱演だし、仙名さんは複数の役をこなしてたけどどれも絶妙な浮き加減(そういう役なので)でもってその場面に馴染んでて、こういう言い方は誤解を招くかもしれませんが「綺麗」よりも「上手い」が先にきた宝塚(娘役)出身の方って初めてかもしれない。